一人で飛行機を利用するのは2回目だ。国内線、片道2時間くらいだろうか。どうしても会いたくて無理を言った。
「空港に着いたら連絡しろよ」
心配そうな声が電波に乗って届く。
「うん。わかったよ、大丈夫」
「一応ゲート前にはいるから」
「ありがとう」
「じゃあ切るからな。何かあったら直ぐに人に言えよ」
「大丈夫だって。じゃあまたあとでね」
空港のロビーを過ぎて検査も終わり搭乗口に着く。携帯を開くと彼とツーショットの写真が待ち受けになっている。彼らしからぬ笑顔が気に入って待ち受けにしている。そういえば彼はそれを嫌がっていたのを思い出して小さく笑う。
搭乗口が開き飛行機に乗り込む。座席は窓側で、よく外が見える。アナウンスやCAの声を聞きながら、そっと時計を見る。正午には彼に会えるだろう。
動き出した飛行機をから見る外の景色は綺麗だった。どんどん小さくなる景色がまるでジオラマのようで、海が空のようで、まるで泳ぐように進んでいく。人の描いた地図の上を飛んでいく飛行機は彼に繋がっているのだ。
遠距離恋愛は続かない。相手を信じきれなくてお互いに傷つけ会うくらいなら別れようという話になったのを思い出す。それでも別れるという選択肢を選ばなかったのは、お互いにそんな目に見える不安だって大丈夫だと言いたくなるくらいに好きあっているからだ。
雲を割って青に交じり、飛行機の影を見ながら熱い太陽の光を浴びる。目を閉じればまぶたの裏にはいつだって彼がいた。携帯で繋がる距離は寂しさを煽るけど、会えるときにはいつだって、遠距離をしているときよりも嬉しくなるのだ。
飛行機の高度が下がっていく。雲を抜けて海が見える。飛行機の影を追い掛ければ空港に到着していた。もうすぐ彼に会える。はやる気持ちを押さえながら飛行機から降りる。携帯の電源を入れるとメールが1件ある。彼からで、ついたら連絡をしろというものだ。全く心配性だなあなんて思いながら電話を掛ける。3コール目で彼はでる。
「もしもし?着いたよ」
「今どこ?」
「荷物待ってる」
「ああ、荷物な、荷物間違えんなよ」
「間違えないよ」
「ロビーで待ってるから」
「うん」
「喉乾いてないか?」
「大丈夫」
「直ぐに飯食いに行こう」
「うん」
「何が食べたい?」
「任せるよ」
「じゃあ地元の料理を食べさせてやるよ」
「楽しみにしてる」
「荷物きたか?」
「まだ。荷物とりにくいから一回切るね」
「ああ。またあとでな、ロビーだからな」
「はーい」
携帯を切ってポケットにしまう。それから直ぐに荷物が見えて、人の間を掻き分けて荷物をとる。足早にロビーを目指す。遠くに彼らしいシルエットを見つけて駆け足になる。着信が彼から入りそれに出る。
「荷物とった?」
「うん。とったよ、ねえ、後ろ振り向いてみて」
私が言うと前方にいるシルエットは振りかえる。だんだん近付いてくる姿は見紛うことなく彼で、私は思わず泣きたくなってしまう。
「三郎!」
「名前!」
彼は携帯を乱暴にポケットに突っ込み走りよる。私もキャリーを引きずりながら駆け足になる。
「名前、会いたかった!」
「三郎」
三郎は私を抱き締める。私も背中に腕を回して背伸びしながら三郎の首筋におでこを寄せる。私のあげた香水の匂いがして、三郎の熱い体温を感じる。キャリーの取っ手がガシャンと地面にあたる音を合図に体を離す。
「久しぶり、4ヶ月ぶりくらいだね」
「正確には3ヶ月と21日だ」
「相変わらずだなあ」
「当たり前だろ。この私が変わるわけがない」
「うん」
三郎の笑顔と、4ヶ月前より延びた襟足と、変わらずに輝く薬指のリングと、三郎の匂い、全部が私の三郎のまま、そこにいる。
「お前はもしかして太ったか?」
「な、三郎最低!」
「冗談だ」
軽く笑いながら三郎はらしい笑顔になる。キャリーを拾い上げてくれて、その反対の手は私の手を取る。
「ああ、お腹すいた」
「上手い飯食わしてやるからな」
「楽しみだなあ」
「ところでなんで急に会おうなんて?」
「だってさ、今日は三郎の日じゃない」
私が笑って見せると三郎はふぬけた顔をして怒鳴る。
「お前もしかして本気で、」
「さあ、どうかなあ」
私がにやりと笑うと三郎は手を握る力を込めて、ぼそりと呟いた。
「まあ、名前と会えるならなんだっていいけど」
その言葉を聞こえなかったふりをして、三郎の迎えに来た車に乗り込む。三郎に会いたいって気持ちに理由は要らない。たまたま、今日が3月26日だったってだけの話だ。
三郎の日
(大好きよ、さぶろう)
end
っていう夢を見たっていう落ちにしようか迷った。
かなり遅くなってまったけど三郎の日おめでとう!
ベタな感じにしたくて、てか夢落ちのつもりで書いたからベッタベタやで。
[ 41/73 ]
[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]