君にまるごとあげよう。夜の帳だよ。明日を探すのはおよし。そんなことは無駄に終わる。冬の寒さに耐えきれぬのなら死んでしまいなさい。春になれば雪は溶け出す。凍てつく指さえまた動こう。まごうことなき、私が神なのだ。死さえ凌駕して、生をも打ち砕く。世界の理は他ならぬ私にある。息吹きが誘うように。花が散り逝くように。月が謳うように。雨が昇華するように。光と闇が交わるように。この世界は私の為だけに在る。だから私のお気に入りになった、君にまるごとあげるから、君のまるごとを私にちょうだい。世界が崩壊する音が聞こえないか?
最期に言った君の言葉が耳から離れない。君が伝えたかったことのほんの少しさえも理解できないけれど、私が戦忍びになったのは、もしかしたらこの日のためかもしれない。
「卒業しても、お前にだけは会いたくなかったよ」
「鉢屋、ねえ、鉢屋」
「最初は先輩だったさ。顔も名前も覚えてないが」
「鉢屋」
「次は、後輩だった」
「もう、いいよ、もういいから」
「なあ、なんで、お前は私だと気が付いたんだ?顔は雷蔵のものではないのに。誰も、私だと気が付かなかったんだ」
鉢屋の声は淋しそうで、謳うように呟いた、どれもひとつだって私には理解できやしないけれど。
「鉢屋だって気が付くよ。だって学園にいたときから少しも鉢屋は変わっていないもの」
学園にいたときから鉢屋はさみしがり屋で、辛いなんて言わないかわりにいたずらばっかりして、皆の注意を引くために、何度も何度も笑うんだ。私の大好きな鉢屋のままだよ。だから、そんなに辛いなら、私と一緒に逝きましょう。
「ああ、お前はあの頃もそうだった。そっくりに化けた雷蔵と私を見破るのもお前だけだ。だから、気に入ったのだよ」
「うん」
「さあ、殺しておくれ、お前の全てをもってして、私をきちんと殺しておくれ。じゃないと私はきっと、いつか、雷蔵も、八も、兵助も、勘右も、みんな、この手で殺してしまうから」
「うん」
鉢屋の素顔を知らないから、きっと、誰が鉢屋を殺しても、こんなに胸を痛めることはない。けれど、もし、鉢屋だと気が付けば、とても辛いことを知っている。だから、私が戦忍びになったのは、きっとこのため。愛する人をもう、これ以上、傷付けないため。ここで終いにいたしましょう。
「鉢屋、愛しているよ」
「知っているさ。だから、私はお前に殺されたいんだ」
君にまるごとあげよう。夜の帳だよ。明日を探すのはおよし。そんなことは無駄に終わる。冬の寒さに耐えきれぬのなら死んでしまいなさい。春になれば雪は溶け出す。凍てつく指さえまた動こう。まごうことなき、私が神なのだ。死さえ凌駕して、生をも打ち砕く。世界の理は他ならぬ私にある。息吹きが誘うように。花が散り逝くように。月が謳うように。雨が昇華するように。光と闇が交わるように。この世界は私の為だけに在るの。だから私のお気に入りになった、君にまるごとあげるから、君のまるごとを私にちょうだい。世界が崩壊する音が聞こえないか?
鉢屋の歌う声が聞こえる。丸腰の鉢屋の懐に入る。これが私達の愛し方だというなら、それもよしとしよう。強く鉢屋を抱き締める。懐刀を鉢屋の背中に突き立てる。鉢屋の私を抱き締める腕に力がこもる。
「ああ、こんなことを頼んで、ごめんな」
「いいの」
だって私も鉢屋を気に入ってるんだもの。もうこれで、誰も傷つかずにすむんだね。この右手に鉢屋を殺した感覚を、忘れないように刻み付けて、まだ暖かい体温と、徐々に無くなっていく心拍と、浅くなる呼吸を、全てこの手に抱き締める。
「名前、ありがとう」
鉢屋の声にならない声を耳許に感じて、私はゆっくりと大きく頷く。
「うん」
鉢屋の全部を感じたまま、私も今、逝くからね。
ラストソングは君と
end
→中二病全開ですみませんでした(´`)
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