真面目すぎるとか、無愛想とか、周りには言われる。これでも委員会中はよく笑っていると思うし、いつもの面子でいる時もよく笑って、よく怒っている気がする。それでも周りはまだとっつきにくいというのだ。別にそれは構わない。自分と関わりのない人はどうでもいいし、なんて言われたっていい。ただ少し、他人の視線だったり評価だったりが、苦痛で仕方ないときがある。それは何でもない日、ふと気付くと落ちているのだ。
今日だってそうだ。教室では勘ちゃん以外興味はないが、それ以外の視線が苦痛で仕方なかった。こういうときに限って座学ばかりだったりする。
授業終了の鐘が鳴り、勘ちゃんと一緒に食堂に向かう。その途中でふと外を見ると、笑っているくのたまの名前を見つけた。
名前はくのたまのなかでもかなり特殊な存在で、年の割に言動が幼い。基本はいい子なのだが、それ故にあまり理解はされておらず、俺が勝手に親近感を覚えているだけで、話したことは少ししかない。彼女の笑顔はまるで太陽のようで、彼女と仲が良いのは確か三年の伊賀崎だったか。一緒にいたくのたまと別れて彼女は手を振っている。くのたまはどんどん遠ざかり、それを見送った後に彼女はへたりと座り込んだ。それを見て俺は、あ、と思った。あ、と思った瞬間に、勘ちゃんの肩をつかむ。

「わ、なんだよ兵助」
「ごめん、俺ちょっと行ってくる」
「あぁ、行っといで」

勘ちゃんはちらりと外を見て、納得したように頷いてくれた。丁度込み入る時間帯だ。逆走する俺に周りは視線を投げかけてくる。それが煩わしい。嫌なんだ。そうやって団体行動で群れる奴らの視線が、声が。
勘ちゃんは込み入った廊下の人たちを散らして、俺の背中を押してくれる。

「ありがとう勘ちゃん!」

廊下を走り抜けて外に出る。まだ名前はいるだろうか。泣いてはいないだろうか。泣かないで欲しい。あの項垂れた頭を上げてほしい。俺の太陽が陰るその時は、さっきの勘ちゃんのように邪魔な雲を蹴散らしたい。
名前は果たしてまだそこにいた。座り込み土を弄っている。よかった。どうやらまだ泣いてはいないらしい。

「名前」

声をかけるとびくりと肩が大きく震えた。

「大丈夫か?」

続けて聞くと、名前は顔を上げて大きな瞳で俺を見た。

「へーちゃんだ。何が?大丈夫だよ」

よいしょと言って立ち上がる名前。こういうとき、普通ならなんて言うんだろう。

「心拍数ともに脈拍の上昇、瞳孔の開き、手の震えから見て嘘だな」

こんな風に時々、発達しすぎた観察力や聴力が恨めしい。本当なら騙されてあげたいのに。

「あぁ、流石へーちゃんだ。でも本当に大丈夫」
「なにがあったんだ」
「ちょこっとね、怖かっただけだよ。女の子ってめんどくさいの。男の子にはわかんないの」
「そうか。なら、とりあえず今ここにいるのは男の子だから、泣いてもいいぞ」
「え?」
「我慢しなくていい」
「へーちゃ、うわあああん、」

大きな声をあげて泣く彼女を見て、ふつふつと湧き上がるこの感情は。
太陽だって泣く。無理して周りの視線なんか気にして作り笑顔なんか作らなくていい。せめて、俺の前では。そっと頭を撫でてやれば、子供のようにそれにすがる。彼女の精神年齢は常に低い。それ故に変な扱いを受ける。誰もあまり関わろうとしない。子供のようだからこそ穢れがなく純粋だ。行儀見習いできている彼女だから。一頻り泣いた後、嗚咽が混じる声でありがとうと言った。この感情はそうだ、多分、



if you
(へーちゃんと呼んでくれる君が俺の光になるように、君の光が俺ならいい。もしもを望めないとしても、そうでありたい。)



end


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