伊作はまるで従順な犬の様だ。だけれどそうでない時、彼は猫の気まぐれな性格の様に、ふらりとどこか私の知らない所に行ってしまう。それが嫌になり私は彼の自由を奪う。鳥から翼をもぐように、動物を檻に閉じ込めるように。
「だから伊作を閉じ込めたの」
私の家に彼を軟禁して3日になる。最初は日帰りで私の家に遊びに来ていた彼の全部欲しくなり、私は泊まっていけと無理を言い、応じてくれた彼の自由を奪った。それに気付いた伊作はどうしてこんな事をするのかと問うた。それに対する答えがさっきのものだ。
「意味わかんないよ」
「だって伊作は誰からも好かれるのだもの。寂しいじゃない」
「何言ってるの」
「だから、伊作の全部が欲しいのよ私は」
伊作の全部が欲しい。閉じ込められた部屋で途方にくれる彼の全て愛しい。
鍵をかけて伊作と二人きりの世界。彼を軟禁して一週間になる。彼は行動に変化を見せつつあった。この檻から逃げたいという素振りを見せなくなったのだ。
「明日は帰り早い?」
「ええ」
「じゃあ一緒にこのテレビ見よう」
にこにこと笑う伊作は4日前とは大違いだ。良い意味でも悪い意味でも、彼には適応力がありすぎる。
「もう逃げようとは思わないの?」
伊作の髪に触りながら聞く。伊作は猫のように目を細めながら言った。
「思わないよ。だって今度は僕の番だから」
「え?」
伊作を撫でていた手を捕まれて、そのたった一瞬で私は彼に組み敷かれていた。馬乗りされている私と伊作の顔の距離が近い。
「僕を軟禁なんてさ、可愛い事してくれるから止まらなくなっちゃった。ごめんね」
いつもと同じ伊作の表情なのにそれはとても妖しく、そして美しく見える。
「どういうこと?」
「君の全部、僕が欲しくなったって事。一週間よく我慢したって誉めてほしいくらいだよ。これでも健全な男の子な訳だし、君とおんなじ、歪んだ思考の持ち主らしいし、ね」
両手首を伊作の左手によって押さえつけられてる。伊作のあいてる方の手は私の服のポケットを器用に漁る。見つけた。と楽しそうにこの部屋の鍵を抜き取られる。体がふいと軽くなり、出そうとした声を伊作のキスによって塞がれる。
「伊作、やめて、」
「いいよ。君が僕だけのものになるならね」
伊作の笑顔に私は上手く考える事もできないままただ頷く。それを見た伊作は満足そうに頷いて、私から唇を離す。
どうやら私の見ていた伊作は建前の伊作であるらしい。従順な犬でもなんでもない。翼をもがれた鳥、閉じ込められた動物は、私だ。
「良い子だね。ちゃーんと僕が可愛がってあげる」
さっきまで私がそうしていたように伊作は私の頭を撫でた。
飼い犬に噛まれる
(望んだのは私かもしれない)
end
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