「あーあ、髪の毛いじってたのに」

長い艶やかな黒髪を手ですいていたら、本人は嫌になったのか急に立ち上がった。するりと私の手から髪の毛は滑り落ちて、背中まであるサラストに私の目は奪われる。

「次は私の番だ」

色素の薄い唇が開いて、いつの間にか私の背後に座っている。彼は私の髪をほどいて両手を通した。結っていた頭頂部は解放されて気持ちいいけど、やはり、指も通らないくらいに絡まっている。

「私のは触んなくていいよ」
「私ばかり触らせてそれはないだろう」
「いやいや、あなた様のように完璧ではありませんから」
「当たり前だ」
「酷っ。否定くらいしてよ」

笑いながら言えば、息だけで笑う吐息が首筋にあたる。何においても完璧で、妥協を許さない美しい彼が私といるだけで奇跡に近い。くのたまで私以上に綺麗な人の方がほとんどなのに、何故私となんだろう。

「名前の髪は猫っ毛だな」
「うん。私もサラストになりたい」
「これはこれで私は好きだがな。ふわふわしていて」
「そうー?」
「ああ」

別に私たちは付き合ってるわけではない。ただなんとなく一緒にいる。私だけが彼を好きで、それで良いと思っている。所詮は忍で、卒業してしまえばいつ敵になるか分からない。だから別にそれで構わない。

「私はサラストになりたかったよ」

悔しさではない。羨望だ。けれど私が癖っ毛で、あなたがサラストならそれはそれで良い。あなたと私は正反対ならそれで良いのだ。男と女。サラストと癖毛。興味なしと好き。それなら辛いのは私だけだ。それでいい。

「私は癖毛になりたかったかもしれない」
「嘘つき」
「ああ。嘘をついた」
「認めるなよ」
「完璧な私はサラストでなくてはいかん」
「そーですね」
「だがたまに名前が羨ましいよ」
「どこが?」
「素直なところがだ」

完璧なあなたはそう言って、私の髪の毛を高く一つに結い直した。



逆さま逆さ
(こんなに思って伝わらなくて、でもそれでいい)




end
→タイトルは逆さまだけど回文だから同じだねって意味にしたかった。





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