すぐに始まる未来でさえ信じられない。年を取っても良い事なんて何もない。給料が良くなった事と有給があるくらい。あと若い子を垂らし込むのに経験が武器になることくらい。まさか遊びが本気に変わったなんて君には内緒だけども可愛い仕事の部下でも彼女でもあるんだから愛してちょーだいなんて言ったら君は怒るだろうか。まあもう十分可愛い愛はもらっているよ。

「休日出勤なんて聞いてません」
「あれ、そうだっけ?」
「すぐにはぐらかす!」
「はは、まあいいじゃない。この広いオフィスに僕ら二人だよ」
「だからなんですか!」

ふてくされた君が文句を言いながら書類とパソコンをにらめっこしている。

「まあまあ、怒らないでよ。二人きりでクリスマスを過ごせるように配慮はしたんだよ」
「配慮の仕方おかしくないですか?!」
「まあね。けど終わんないと年末首をくくるしかないから我慢してよ」
「もー!!」

カチャカチャとキーボードを叩く君は本気でおこってるわけじゃないと知ってるよ。年取ればこう言うことはわかるもんなのねと一人ごちる。若い部下を見てるといいなあと思う。きっとこの子とつりあうんだろう。見た目も価値観もこれからの生きる道も、ピタリと重なっていくんだろう。君との未来を夢見ることさえしてはいけないそんな気がしてならないんだよ。クリスマスなんてもう何年も祝ってはないし、まあそんなもんかと思う。けど年齢よりも大分幼く見える君と出会って変わるまではいかなくても日々楽しいとは思うわけだ。ミスもよくするし、すぐに落ち込むしで困った部下だけど、一生懸命できちんとプライドをもっている。そんな君に惹かれるなんていい年しておじさんも困ったもんだ。

「これ終わったらデートしようか」
「スイパラ」
「え?」
「スイパラ連れてってくんなきゃ嫌です」
「えー、絶対今日混んでるでしょ」
「ですよねー」

ため息をつく君に内緒で笑う。きっと君にとってクリスマスはとても大切な行事なんだね。

「家においでよ。ケーキとチキンとワインとプレゼントくらいなら用意してあるからさ」

そう言うと君はパソコンから視線をはずしてこっちを見る。大きな目をもっと大きくして君は口を開く。

「十分すぎるじゃないですか!絶対雑渡さん用意してないと思ったのに!」
「こらこら、大人を甘く見ちゃいけないよ。君が好きそうだから、ずっと前から用意してたんだからね」
「雑渡さん!」

私、もう、超頑張りますね!!とかなんとか。最近の若者の日本語の乱れがうんたらかんたらとか考えながら顔を赤らめる君を見て笑った。可愛いなあ、この子は。君との未来なんて正直想像もつかない。若い部下と付き合った方が君も本当は幸せなのかなって実はちゃんと考えてたりするわけ。この年になると結婚の二文字だって飛び交うわけだし、君がどうこうよりも世間は甘くない。いくら君が成人してるからってかなり年の差があるのも事実だし。でも君がいつも笑っていられる未来ならいいと思うんだ。隣に俺がいなくても、そりゃまあ悔しいだろうけれど、君の未来はそうであって欲しいと思う。クリスマスのケーキみたいに甘くなくても、俺の未来が代わりにどんなに辛かったとしても、それで君が幸せななるならいいと思う。これを愛と言わずになんと呼ぼう。他に名前があるなら知りたいところだ。

「なんのケーキですか?」

君が嬉々として訪ねる。その表情は本当に幼い。

「ブッシュ・ド・ノエルだよ」
「本当に?私大好きなんです!」

よし、早く終わらせるぞ、と意気込む君を見て、早く上がれるように俺も本腰を入れる。とりあえず君が笑う未来は今の俺にかかっているようだから。



ウィート・ウィート
(甘い未来も想像できない。けど今はとても甘い)



end


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