おやまあ。今日掘った穴に落ちたのは不運委員長でも事務員でもなく、くのたまだった。目印をつけておいたのだけど、珍しいものが落ちたものだ。きゃあという甲高い声が聞こえてきて、木の上で誰か落ちないか観察する事飽きてきた頃合いの事だった。

「大丈夫ですかー?」

穴に向かって声をかけると、はーい、という声が聞こえてきた。

「怪我してませんかー?」
「はーい」
「一人で上がれますかー?」
「いいえー」
「これはターコちゃん3号なんです。深いですよー」
「わかりまーす」
「手え届きますかー?」
「届きませーん」
「君の名前はー?」
「名前でーす」
「ああ、名前だったの」
「綾部くん、早く助けてくださーい」
「はーい」

そうかそうか。名前だったのか。名前はかわいくて強くて、こんなドジをする子ではなかったはずだ。

「縄ばしご下ろしまーす」
「お願いしまーす」

縄ばしごを下ろすと、重みと共に名前がのぼってくる。

「珍しいね、落ちるなんて」
「うん。びっくりしちゃった」
「何か考え事でも?」
「ううん、なんとなく、穴に落ちてみたかったの」
「なんで?」
「綾部くんの作る世界を見てみたかったから」
「ふーん」

泥だらけの身体を気にもせずに笑った名前の顔がなんだか眩しく見えて、這い上がった名前の身体をくるんと抱き締めて、もう一度、

「いったーい」

穴の中へ。

「なに?どうしたの綾部くん、てか大丈夫?」

僕の身体を下敷きにしてターコちゃん3号に落ちた。名前はびっくりして僕の身体をあちこち見て怪我をしていないか確認する。けどまだ僕の腕のなかに大人しくしている名前を見て、なんだか心のそこから安堵に似た気持ちが沸く。ああ。ああ、落ちてしまった。なんだか可愛いことを言ってくれたこのくのたまに。

「ねえあのね、僕、名前のこと好きみたいだ」



Fall in love
(期待させといて裏切らないでね)



end





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