泣けばすむと思ってる女は嫌い。構ってちゃんが嫌い。可愛くなる努力もしてないのに可愛い子は良いよねって言ってる女も嫌い。
「それ全部自分のことじゃない」
「そうだよ」
「最後は名前がよく女子にそうやって絡まれてるな」
「うん。だから例えば可愛くないとしても、可愛くなるために頑張ってる子は大好きだよ」
私は私が嫌い。三郎と雷蔵と私の関係を探る奴らが嫌い。ぶりっこする女もチャラ男も嫌い。
「じゃあどういう人達が好きなの?」
「私が友達だと思ってる人かな」
「範囲狭いな」
「そう?」
「名前の友達以外で、嫌いにあてはまらない人達は?」
「よく言えば普通。悪く言えば興味ないよ」
「よく言って普通なのか」
「それ以上でも以下でもないだけよくない?」
二人で好き勝手言って私の好き嫌いを笑っている。はっきりしていていいじゃないかと思う。食堂で他愛もない話をしているときが好き。実習中に守られるのが嫌い。二人は大好き。私は大嫌い。好きと嫌いとそれ以外で分類できる単純な作りの世界が私にはあっている。そして二人はそれに合わせてくれてる。どちらかと言えば二人は複雑にできていそうだけれど、なんでか気はあう。これも合わせてくれてだけかもしれないけど、とにかく、私は三人でいるのは好き。そこには楽しいと幸せと気がおけなくて楽っていう単純さで構成されている。
「今度の実習って三人一組でしょ?」
私が聞くとああ、と三郎が頷いてくれる。
「くの一と合同のやつでしょ?名前はもう一緒に組む人決まってるの?」
「そうそう。決まってないよ。くの一の人数は少ないし、男の子と組めるのを皆探してるみたい」
「じゃあ私達と組めば良いさ」
「本当に?実はその言葉を待ってました」
「待ってなくても言えば良いのに」
「他の子と組むって言われたら悲しいじゃない」
「名前は変なところで考えるよね」
「考える前に私たちに言えよ、これからは」
「うん」
「それから今日のくの一の毒要りお菓子はどれだい?」
「これだけど?」
「悪戯しに行こう」
「三郎、お前ね、僕の顔でやるなよ」
「えー、」
「やるなよ」
「はい」
いつも通りの会話に私は笑いながらそれを見る。好きと嫌いみたいに正反対のもののみで世界が構成されているなら、果たして私はどうなるだろう。白と黒で解れるとしたら、正義と悪なら、私はどちらの存在なんだろう。間違っても二人は離れちゃいけないというのは解る。それが正義だ。白だろうが黒だろうが。私はそんな二人に憧れたのだ。好きも嫌いもきっと超越した何か。私のさじ加減で物を言えば両思いのこの二人の根っこの部分が好き。だから私は三人でいるときもたまに傍観しているだけの日もある。
「でもその毒要りのお菓子どうするんだい?」
「誰かに食べてもらうよ」
「僕らは絶対食べないよ」
「雷蔵たちには毒なしのお菓子を用意しております」
「名前は私達が本当に大好きだなあ」
「うん、大好きだよ」
「え、いや、ここは否定するところか冗談で返すところだぞ」
「あ、ごめん」
「いや、いいよ」
嬉しそうに笑う二人を見て私も笑う。なんだかだんだん眠たくなってきた。こんな穏やかな日にはお昼寝をするのが一番だ。我慢するのは嫌い。本能に従うのは好き。理性は必要だけど今は不要だ。
「ねー、私眠たくなってきたから、寝ていい?」
「こんなとこで寝るのか?」
「いい感じのお日様ですしそれもいいけど、長屋に戻って寝る」
「そしたらもう晩ごはんまで会えないじゃない」
「うーん、でも、眠たいしなあ」
「それなら僕らの部屋においで」
「やだよ、自分の布団で寝たいもん」
「我が儘だな」
「どっちがよ」
こういうやりとりも好き。なんだかんだ、この二人がだいすきでたまらないんだ。
「毒要りのお菓子をもらってくれたらいいよ」
私がそう言って笑えば、二人の笑顔がひきつるのが解る。
「んー、僕は毒なしのお菓子だけでいいかな」
「私も毒なしだけでいい」
「そう?今回は新作なの。食べてから下痢を伴う腹痛のあとに、吐き気も伴うから大変なやつ」
「いや、遠慮するよ、くのたま長屋に戻ってゆっくりお休み」
「そうだね、それがいい」
慌てる二人を見るのは珍しい。私が嫌と言えば決して無理強いはしない。毒要りのお菓子だって私が二人に渡す気がないというのを分かっている前提での他愛もない冗談だと理解している。近すぎず離れすぎないこの距離も好き。
「じゃあ私は長屋に戻るね」
「その前に、毒なしのお菓子だけ私たちにおいていけ」
「ああ、そうだったね」
早めに食べてねと言って笑えば、雷蔵はわかったと言って受け取った。多分くのたまの中でも一番二人と仲が良いのは私だ。そんな優越感を抱く。この関係を侵す人がいるとしたら、私はその人を例外なく許さないだろう。そして二人もそうだと思っている事を知っているその事実。要するに私はこの二人に関わること、その全てが好きなんだ。
好き嫌い好き
(やっぱり嘘、大好き)
end
→暗くない話が双忍で書けたことに満足です。
良い双忍の日にあげたかった!
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[mokuji]
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