不破雷蔵
どれにしようかな。パンプキンパイ、オペラ、モンブラン、ショートケーキ、ガトーショコラ、チーズケーキ、プリン、シュークリーム、ミルフィーユ、タルト、どれも美味しそうで困ってしまう。まるで雷蔵の迷い癖がうつってしまったみたいだ。店員さんが小さく笑って話しかけてくれる。
「どれも美味しいから迷いますよね」
「そうなんです!」
「オススメはパンプキンパイですよ」
「やっぱりですか」
「はい。先程も長い時間迷っていたお客様がいらっしゃいまして、パンプキンパイを買っていかれましたよ」
「え?それって男ですか?」
もしかして雷蔵かな?なんて思いながら聞くとにこやかにそうです。と店員さんがこたえてくれる。
「目がおっきめで、柔らかそうな髪の毛でしたか?」
「ええ多分。目は大きかったですね」
やっぱり雷蔵かも。
「その人が何を買ったか覚えてますか?」
「パンプキンパイとミルフィーユを買っていかれましたよ」
「じゃあ、えと、タルトとガトーショコラください!」
「かしこまりました。少々お待ちくださいね」
もし雷蔵だったら買ったケーキが被ってしまうから、パンプキンパイは止める。よっぽどにやけていたのか、店員さんが箱にケーキを詰めながらたずねてくる。
「もしかして彼氏さんですか?」
「え?」
「先程のお客様がおっしゃられていたんです。彼女とハロウィンをするって」
「あ、はい!」
早く帰って雷蔵に会いたいな。店員さんのありがとうございましたー、という声を後ろから聞きながら、幸せを両手でしっかり抱え込みながら帰路を急いだ。
ハッピーハロウィン!!
(ただいま)
(お帰り、ケーキ買ってあるよ)
(もしかしてパンプキンパイとミルフィーユ?)
(なんでわかったの?)
(トリックオアトリートですから)
(意味わかんないよ)
(へらりと笑う彼が愛しい)
久々知兵助
「トリックオアトリート!へーちゃん、お菓子ちょーだい」
「お菓子、もってないけどなんで?」
「なんでって、今日はハロウィンじゃん」
「なにそれ」
「え、知らないの?」
「ああ」
「もったいない!じゃあハロウィンを満喫しにいこう!」
早速へーちゃんの手を取って走り出す。鉢屋のとこに行ってまずは仮装させてもらう。雷蔵の所に行って籠をもらって、自分達の持ってきたお菓子を入れる。出会った八くんに
「トリックオアトリート」
って言ってもらう。
「お菓子をあげればいいのか?」
「そうだよ」
「もってない」
「ならイタズラだね」
「え?」
「行け!八くん!」
「おう!」
八くんはへーちゃんの腰辺りを思い切り掴み、
「擽りだー!」
「うわ、やめ、あはは…」
「はあ、はあ、お前やりすぎ」
息を切らしながらへーちゃんは八くんに文句を言う。八くんはそんなのお構いなしにけろりと言ってのける。
「イタズラだから」
その言葉にへーちゃんはあきれながらも小さく笑った。そんなへーちゃんに私はちょんちょんと脇腹をこづく。
「ほら、へーちゃん、言うことあるでしょ」
「言うこと?ああ、トリックオアトリート?」
「おう!」
八くんはへーちゃんの籠にお菓子を入れてくれる。
「ありがとう」
「おう、楽しめよ」
八くんは片手をあげて私たちと反対方向に歩いていく。私とへーちゃんは次々に会う人会う人にやっていく。いつのまにかお菓子は籠にたくさんになっていた。
「ね、楽しいでしょ?」
「ああ、楽しい。今まで知らなかった」
「トリックオアトリート、へーちゃん!」
ハッピーハロウィン!!
(大学って凄いな)
(凄いのは今まで知らずに生きてきたへーちゃんだよ)
鉢屋三郎
「トリックオアトリート!」
まるで子供のように笑う鉢屋に、不覚にもドキリとする。いっつもイタズラばかりするこいつの純粋そうな表情を、もしかしたらはじめて見たかもしれない。
「残念、お菓子はもってないんだ」
「じゃあイタズラだな」
「嫌です」
「ならお菓子!」
「名前の手作りじゃなきゃ認めません」
「いやいや、何様だよ」
「俺様」
まるで子供のように、じゃなくてこいつの頭はガキだな。を睨み付ける。
「家まで来たら手作りのカボチャクッキーあげるけど?」
「行く行く!そんでついでにイタズラをしてもいいんだよな、そういうことだよな」
「ちげーよ、イタズラはなしだ」
「カボチャクッキー要らないからイタズ」
「言わせねーよ」
「ほら早く、名前の家に行くぞ」
「カボチャクッキーしかやらんからな」
「わかってるって」
「なんで鉢屋は楽しそうなの」
「そりゃ好きな女の家に行けて手作りクッキーがもらえるんだから嬉しいに決まってるだろ」
鉢屋の笑顔にまたドキリとして、私は照れ隠しに憎まれ口を叩くのだ。
「クッキーはお母さんの手作りだけどね」
ハッピーハロウィン!!
(嘘だろ?)
(いや、ガチだ)
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