綾部喜八郎

飴を差し出されて、思わずそれを受け取る。

「今日はハロウィンなのであげます」

なんの表情もわからないまま、綾部君は私に片手をつき出します。私はそれに両手を差し出す。

「ありがとう。じゃあこれをあげます」

綾部君から貰った色とりどりの飴を片手に持ち直し、鞄から持ってきたチョコレートをあげる。

「ありがとうございます」

嬉しそうにはにかむ綾部くんは私にもう一つ飴をくれた。棒つきのペロペロキャンディ。毒々しい赤と、橙の2本のキャンディは日に透けてキラキラしている。

「今日はハロウィンなので、僕はお化けです」
「はい?」
「なので君をさらっていいですか?」
「はい」
「じゃあ行きましょうか、お化けに拐われたお嬢さん」
「はい。だけど私もお化けです。綾部くんを連れていきたいと思ってチョコレートを用意してました」
「おやまあ」


ハッピーハロウィン!!
(利害は一致だ)
(今日はハロウィン。全て隠して本当を言っても次の日には全部夢だよ)
(だから安心してさらわれてね)


斎藤タカ丸


「名前ちゃん、ハッピーハロウィーン!はい、お菓子だよー」

廊下を歩いている途中、前方から派手な髪型であきらかに黒染めしました。みたいな赤髪を揺らしながらこちらに向かってくるタカ丸さんにお菓子を貰う。

「え、いいんですか?」
「もっちろんだよ。今営業中なんだー。俺の父さんの店に来てくれた子にあげてるの」
「ふーん」

なんだ、営業かあ。ほんのちょっと、私だから、とか、期待してしまった自分が恨めしい。私もハロウィンだから用意したのに、渡しにくくなってしまった。

「それからこっちが僕個人のね。トリックオアトリートー」

営業用のと違い、結構しっかりした作りの箱を渡される。へにゃりとした笑顔に心臓は嬉しくなる。チャラい見た目でやることもチャラいタカ丸さんの優しさに、私も思わず笑顔になる。渡せないと思っていたお菓子を、ポケットから取り出した。

「私からもあるよ!」


ハッピーハロウィン!
(特別だよ、君だけに)





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