綺麗に洗練された形、まるで純粋さを表現するかのような白、何にでも合わせることのできるこいつに、最初は羨ましいと思っていた。生きてるだけで誰かを傷付けてしまう俺だから、例え癒せはしないとしても、それでもいいと思ったんだ。

「今日は俺とお前の特別な日だからな」
「そうかもしれないけどさ」

隣で歩く彼女は朝から機嫌が悪い。絶対家にいてと言ってすごむし、喉が乾いて冷蔵庫に向かうにも睨むしで、こうして外に連れ出せたのは俺の努力の賜だ。 渋々歩く彼女の隣で、俺はやけに嬉しくてにやけが止まらない。

「ほら、もうすぐつくぞ。元気出せよ」
「誰のせいだと思ってるのよ」
「誰のせいなんだ?」
「もういい」

ため息をつく彼女もきっとすぐに笑顔になるはずだ。俺と違って期待を裏切らないのがいいところだ。変わらないでいられることは難しい。しかしそうであるのだから最早尊敬の念しかでない。

「ほら、着いたぞ。今度一緒に行こうと言っていた場所だ」
「そうだね」

店に入って席に通される。セットメニューを俺と彼女の分を頼む。

「そんな浮かない顔して何かあったのか?」
「兵助は楽しそうだね」
「ああ、こうしてお前と今日と言う日を迎えることができたのは俺の誇りだ」

生きてるだけで俺は誰かを傷付けてしまうから。こうしてお前を守れる毎日が楽しくて嬉しくて誇りなんだ。幼い頃の俺は、人を傷つけずに生きることがどれだけ難しいか知らなかった。だけど守ることの大切さを知った。
注文したセットメニューが届く。目の前に並べられる料理の数々に、思わず息を飲む。

「美味しそうだね」
「さっきまで機嫌悪かったのにな」
「いいでしょー。だって兵助のことだしさ、絶対にこうだってわかってたもん」
「まあいいじゃないか」
「まあね。兵助と付き合えるのは私くらいだよ」
「ああ、俺もお前以外なんて見えないしな」

生きてるだけで誰かを傷付けてきた。だが俺はこいつと出会って知った。人を傷付けずに生きているこいつを見て、本気で尊敬したんだ。今日は彼女と俺の特別な日。そこには今日もこれも加えなくてはならない。愛しの豆腐、お前がいるから今の俺がいるんだ。


「兵助!いい加減起きなってば」

彼女が枕元に立っている。勢いよく起き上がり、辺りを見回す。

「あれ、豆腐料理のセットは?」
「は?なにそれ」
「ああなんだ夢か」
「気持ち悪い夢みんなよ」
「今日は俺とお前で豆腐料理を食いにいく夢を見たんだ。豆腐は偉大だぞ。生きていても誰かを傷付けることはないんだ。豆腐の角で人は傷付かないんだ」
「もうどっからツッコんでいいかわかんねーよ」
「そうだ、実際に豆腐を食べに行こう」
「行かねーよ」
「今日は記念日だろう」
「なんのだ!」
「知らないのか、今日は豆腐の日だ。」
「もうお前は豆腐に溺れて死んでくれ、お願いだから」
「よし、そうと決まれば支度しよう。逃げるなよ名前」
「ちょ、誰かこいつの頭を救ってあげてー!」



10月2日は豆腐の日
(本当だよ。人を殺して生きる俺には豆腐は凄いと思えたんだ)



end

→ギャグがかけるようになりたいです。


[ 12/73 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]





- ナノ -