いつも物腰柔らかで優しい笑顔で皺ひとつないスーツを着てる上條元親。
真奈美がそんな彼の普通の男の人の一面を少しずつ見れるようになって数ヶ月。

「むにゃ……」

寝言を言ってる彼を見るのは初めてだ。真奈美は一瞬固まって、それからくくくと笑いをこらえた。

(むにゃ、とか言ってる!)

幸せそうに唇を開いて寝ぼけている彼は実年齢よりもかなり幼く見える。寝ている間も真奈美の腰に回されている腕はしっかりとしたおとこのひとなのに、目の前のあまりに可愛らしい寝顔に真奈美は破顔した。

そっと手を伸ばし、頬をつん、と突く。
元親はぴく、と反応したが起きる様子は無くそのままむにゃむにゃと言葉にならないことばを零した。だがぎゅっと腰に回された手に力が入り、真奈美が驚いて手を引っ込めた瞬間、

「……ぱるふぇー…」

パルフェ?
真奈美は再び固まった。
(わたしの名前じゃ、ない)
よりにもよって他の女(クマだけど!)の名を幸せそうに呟く恋人に、真奈美は少なからずショックを受けた。
(やっぱり…元親さんはくまの方が大切なんだ…!)
やはり真奈美よりもクマたちの方が付き合いが長い。元親ともしこの先暮らすならばクマたちも一緒だということは分かっているし、真奈美もベア6が大好きなのでさして問題では無い。クマに嫉妬するわけではないけれど寝言で呼ぶほどだなんて!

「ここっとー……へーぜるー…」

そのあとも全員の名前を呼び、「どらやきー…ですよー…」と寝言を続行する元親を複雑な思いで見つめながら、真奈美はある事を思いついた。

「が…がうー」

返事をしてみた。

ドキドキしながら元親を伺うと、緩んだ口元をにやりと笑みの形にして元親はよしよしと真奈美の腰あたりを撫でる。

「いいこ、ですね…」

きゅんと胸の奥が切なくなる。(わたしもいいこいいこされたい!)
ぐっと唇を噛み締めて、真奈美はクマたちを思い浮かべて答える。

「ふぁにぃ…」
「ごほうびを、あげましょうね…」

そう言うなりゆっくりと近づいてくる元親の唇に真奈美はいよいよ本気で焦り始めた。
(わたし今クマなのに!元親さん!元親さんてば、く、くまにちゅうしてるの!?)
そんな様子は見たことなかったため余計変な気持ちになる。まさか誰も見ていないところでクマたちにキスまでしていたなんてそれはそれでこの人危ないのではないか?

「が、がうー!がうがう!がうー!」
真奈美はパニックになり、クマの真似を続けたまま元親の胸を押してキスを阻止しようとした。ぐいぐい押されながら流石に元親も目を醒まし、ぼんやりと胸の中の恋人を見下ろす。

「ん…まなみ、さん?」
「がうー!!がうがうー!がうっ」
「まなみさん、ちょっと…」
「がうがうがうー!」
「ま、真奈美さん、」
「がう、!…も、・・・・・・元親さん?」

は、と気がついたときにはもう遅い。
完全に目が覚めた元親と、ようやく目が合う。

お互い硬直したまま、気まずい沈黙が流れる。
先にそれを破ったのは、全ての元凶である元親だった。

「これはこれは…可愛らしいクマさんですね?」
「ちが…っこれは…っ!!」
慌てて事情を説明しようとする真奈美の額にキスをして、元親は優しく微笑む。

「寝ぼけてらしたんですか?」
「え、ちがうんです、ねぼけてたのは…っ」
「真奈美さんてば、寝ぼけてクマさんになってしまうなんて…」
「も、元親さんっ」
「かわいらしすぎて、どうにかしてしまいたくなってしまいますね」

ひ、と喉の奥で悲鳴を飲み込む。

優しいけれどいやらしい目つきになった恋人は、真奈美の見えない尻尾にゆっくりとその手を伸ばした。





20090918



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