指先の花
このひとにこうやって抱かれるようになってもうどのくらい経つだろう。
「……ッあ、」
「声を出せ」
「……っ!っ」
ぐい、と後ろに引っ張られる腕。いくら繋がりが深くなったって奥ばかりずんずん抉られたって、絶対に言う通りになんか喘いでやらない。
霞んで揺らぐ視界で入り口の扉を睨む。そこには必ずあいつがいるだろう。影、だなんて言ってこんな奴に付き従ってるピエロみたいなあの男。そんな見張りがいなきゃ女も抱けない卑怯者に、私の体は好きなように弄ばれる。放課後の悪夢。補習前の束縛。
壁に押し付けて後ろから私の体を潰すようにめちゃくちゃに挿入したあとは、いつもこうして向かい合わせて膝の上に乗せる。痛いくらいに股を開かせて、ぐいっと体を引き寄せて。
「…入っているのがわかるか?」
「……っ」
「ほら、こうやって」
ぐちゅ、と円を描くようにそれを動かす。意思とは関係なく濡れた私の胎内は笑っちゃうくらいお喋りだ。ぐちゅ、ちゃぷ、ちゅぷ…気味が悪いくらい青白い男の手のひらに、私の腰は簡単に収まってしまう。収まって、自在に動かされて。肌が粟立つくらいに感じたって絶対に私は思い通りになんか。
「…ならない、からっ」
「…?」
「…絶、対に…理事長、なんか…っ…にっ!」
「…そうか」
「………!!っ!」
途端唇を奪われ、呼吸さえも支配されながら理事長の指先が私の一番敏感な芽に這わされる。思わず息を飲む。男のものでギチギチに拡げられ、圧迫されたそこを今触れられたらもう駄目だ。
男のくせに器用で細いその指は的確に薄い皮膚をめくって、ぬらぬらした粘膜を苛める。
「っ…!…〜〜〜!」
声も上げずに全身を震わせて私は果てた。それでも容赦なく激しく男は子宮の奥を馬鹿みたいに狙ってピストンを続ける。
足先まで震えが止まらない。ああ、またあの感覚。
ぐいっと腰を痛い程押し付けながら、不意に男が耳元で囁く。
「…愛していると言え」
今、何て、
確かめる間もなく男は射精に向けて律動を激しくする。
行為が始まってから初めて男の瞳を見る。視線が絡み合う。
「…あっ…」
思わず漏れた声。
「愛してると言うんだ」
ぐい、と顎を掴まれる。
「んん…っ」
「言え!」
酷い男だ。指先が白くなるほど私を強く痛めつけて。選択肢を全て奪ってまで偽りの言葉を聞きたいのだろうか?
…本当に、酷い男だ。
慣れない力を使って、無理矢理体を拓かせて。鬼畜ぶるなら最後まで演じ続ければいいのに。
どうして最後の最後でそんな瞳をするのどうして指先はそんなに震えているの?
「…言って…くれ…」
すがるように巻き付く腕に束縛されたのは体だけじゃない。
「あ、…あぁっ…!」
奥の奥でたっぷり放出された精液を受け入れながら、私は彼の頭を掻き抱く。
こんなに強く抱き合っても、私はけして彼の望む言葉を吐くことは無いだろう。
そしてまた放課後がやってくるのだ。
影の視線を背に感じながら、私は疼く体を抑え教え子の待つ教室へと向かった。
20090613