※弱虫の衝突/分.別.奮.闘.記を元にしました。



 すてようと決めた。だってこれはゴミだから。だっていらないものだから。
 部屋に散乱していたものを集めて纏めてひとつにする。大事に大事に束ねていたそれを、乱雑に積み上げる。だってこれはもう必要のないものだから、傷ついたってどうでもいいものだから。
 ゴミは口々に彼に言う。すてないでくれと切なる声で訴える。どうして? と問いかけて、じゅうだい、じゅうだい、と優しい声で少年の名前を呼ぶ。かわいそうだな、とは思うけど、彼は答えを変えようとは思わない。
 ゴミは分別して出さなくちゃいけない。燃えるゴミと燃えないゴミと、缶やビンと資源ゴミと。はた、と少年は考える。好き勝手に喋りまくるこのゴミは、いったい何ゴミで出したらいいだろう。悩んだ時間は一瞬で、少年はすぐにほっと息をついた。どうにも厄介そうなこいつらはきっと不燃ゴミだ。燃やしたら妙な物質でも出そうだし。
 幸いにも今日は月曜日。不燃ゴミの回収は火曜日だと知って安堵。明日の朝出せば、ゴミは全部持っていってくれるだろう。煩いゴミはきっと全部。



 お昼すぎにゴミ捨て場を覗くと、ゴミは何故か未だそこにあって、少年がすてたゴミを青年が拾い上げて、懐かしむようにそれらを眺めていた。いらないから欲しいならあげる、と言おうとすると、青年はどこか冷えた目で少年を見下げて、ずいとそのゴミを突っ返した。
 燃えるゴミは月曜日。淡々とした口調で青年は言った。底冷えした彼の瞳は、それらをすてたことよりも、分別が行われていないことを咎めていた。

 これ燃えるの? こんなにうるさいのに? こんなに煩わしいのに? 燃やしていいの? これ本当に燃えるの?

――燃えるよ。だって紙だろ?

少年の問い詰めに、青年の答えはあっけらかんと一瞬で、呆気にとられた少年の前にしゃがみこんで、頬杖をつきながら無関心にぽつりと言った。

――それって、お前が燃やしたくないだけじゃないの?



 彼らは色んな姿をしている。抱き締めたくなるほど小さなものもいるし、ぽかんと口を開けて見上げるほど大きなものもいる。それらは時に少年に寄り添い、少年が彼らを友と呼んだこともあった。
 だけど、彼らをすてなければいけなかった。彼らと別れなければいけなかった。少年は彼らと一緒にいてはいけなかった。
 誰かの怒声が頭の中をよぎった。その人の前でお父さんとお母さんはひたすら頭を下げる。ごめんなさい。自分が何をしたかはわからないけど、お父さんとお母さんに少年はごめんなさいを言う。許してほしかった。笑ってほしかった。
 ぐらり。友人は崩れ落ちる。苦しそうに呻いて。世界が涙にゆがむ。ごめんなさい。ごめんなさい。
 誰かが叫んでいる。笑っていた友人たちは、ひどく冷たい目で少年を見る。怖くて怖くて、謝り続けた。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
 お父さんとお母さんは言った。いい子だから、もうアレで遊ぶのはやめなさい。
 だから少年は、彼らをすてようと決めた。



 ふと少年は考える。大きすぎるこのゴミは、いったいどう捨てたらいいだろう。ゴミはそれぞれ違う姿をしていて、見上げるほどに巨大なものもいる。
 考えた結果、粗大ゴミで捨てることにした。形もまばらで、大きさも揃わないゴミだから、いっぺんに運ばれてしまったらきっと楽だろう。



 お昼過ぎにそこをのぞくと、やはり青年が無表情でゴミを拾い上げていた。どうして? と問いかければ、普通のゴミはゴミ袋へ入れてすてろ、と機械のように告げられた。
 普通のゴミ? と聞けば、そうだろう? と当たり前だと言わんばかりの返答。青年には彼らが見えないのだろうか。こんなに大きいのに。助けてくれと、足元にすがり付きたくなるほどに。
 ゴミ袋になんて入るわけない。すると、ほのかに笑みをたたえて青年は答えた。呆れたような笑みだった。

――入るさ。だってそれカードだし。



 もしかしたら、これらはゴミではないのかもしれない。ゴミではないから、こんなにすてることに苦労するのかもしれない。普通のゴミだったらきっと、もうとっくに持っていかれて処分されているだろう。だけどゴミはまだここにある。だからこれはゴミではないのかもしれない。認めたくはないけれど。
 少年がデュエルをすると、遊んでくれた友人たちはみんな倒れていった。そして少年を恐れ、拒絶した。少年は悲しかった。ただ、デュエルも友人も好きなだけだったのに。
 多くの人を傷つけた。迷惑をかけた。だから少年は彼らをすてなければならなかった。愛したカードたちを、そこに宿る精霊たちを、ゴミと呼ぶことにした。だからこれは、本当はゴミではないのかもしれない。
 いや、ゴミだろう。俯く少年に青年はあっさり言った

――それはゴミだろ。だって邪魔だし。あったって迷惑なだけなんだろう? じゃあそれはゴミだ。間違いなく。

でもな、と青年は続けて、少年の頭にぽんと手を置いた。情けなく顔を歪めた少年に、ふ、と笑みをかける。まるで懐かしいものでも見るかのように。
 青年は少年に、少年がすてようとしたデッキを差し出した。

「君がまだそれを大切に思うなら、こいつらは友達のままだぜ。君がこいつらと出会ったその日から、ずっとな」

呆気にとられた少年は、おずおずと手を伸ばしてデッキを受け取る。
 見上げた先で、顔のよく似た青年が満足そうに微笑していた。



 数十年が過ぎて、少年は青年になった。少し癖のついた茶髪は後ろに流れ、強い眦の瞳は多くの経験を物語っている。
 青年の少し後ろに精霊の姿があった。精霊は青年に、どこへ向かうのだと問いかけて、青年はヨーロッパの方へ行くのだと答えた。なんでも最近、モンスターが消える事件が相次いでいるらしい。
 危険なのは承知の上のことだった。今度こそ無事では済まないかもね、と精霊はからかうように言う。この減らず口が、と青年はカラカラと笑って答えた。

「お前が一緒にいてくれるんなら、大丈夫さ」

幼少時、彼がすてようとした精霊たちは、今もずっと友人のままである。

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