遊星は、いつもいつもアジトの椅子に腰かけて機械を弄っている。例えばそれはオレたちのデュエルディスクだったり、趣味で見つけてきたガラクタだったりした。
 細かくて難解な作業が多いし、一体何がそんなに魅力的なのかは知らないが、遊星はいつもいつも、どこか楽しそうに作業をした。そんな遊星を見ているのは嫌いではなかった。


 ソファに座って、適当に拾ってきたデュエル雑誌をペラペラと捲っていると、コツン、と乾いた音がした。少しばかり気になってふと顔を上げてみると、いつものように椅子に座って機械を弄っていた遊星がふらっと立ち上がって、そのままこちらへと歩いて来るところだった。どうやら先の音はドライバーを転がした際のものであったらしい。
 何も言わない遊星は、ぼすっと乱暴に、オレの隣へと腰を落とす。壊れかけのスプリングが、悲鳴のような音をたてた。
 遊星は口を開かず、そのままくたんと、まるでぬいぐるみのように横になった。オレにもたれ掛かるようなその体勢に、僅かばかりの戸惑いを覚える。
 遊星は他人に甘えるなんてことをほとんどしなかった。遊星のそんな一面を「無愛想」と評する声は決して少なくないが、遊星は別に、他人を拒絶してそうしているわけではない。しかしそれでも、遊星がこうしてスキンシップを求めてくることは、滅多にあることではなかった。

「なんだよ、どうした?」

雑誌を捲りながら聞いてやると、近くなった耳元で遊星はポツリと言った。

「集中力が切れた」

あぁ、遊星でもそんなことあるんだな。



 ふたつ年下の遊星はまるで弟みたいだ。決して他人を否定せず、柔軟に意見を受け入れてくれる遊星には、色んなことを教えてやりたくなる。
 友人よりも、親友よりも、ずっと近くに感じるオレの弟。
 そんな遊星は今、オレの脚の間で必死になってオレの指をしゃぶっている。

「ふっ、う……んぁ、」

「涎垂れてるぜ、遊星」

顎まで伝う唾液を親指の腹で掬ってやると、遊星はオレの手を両手で掴み直して、今度はその親指を口に含んだ。自分の唾液を掬うように、遊星の舌先は水音をたてて指先に絡みつく。
 そうしながら、また新たな唾液が彼の口の端から垂れるのだから仕方がない。苦笑しながら、遊星の前髪をかきあげてやった。

「んん、ふ……ぅ、はぅ」

すると、遊星は幸せそうにその瞳を緩ませる。快楽に蕩けるように瞳に水の膜を張り、頬を蒸気させながら、すがるようにオレの指を咥える遊星は、なるほど欲情的だった。
 遊星はオレの指が好きらしい。そう言って、おずおずと舌を出して、ちろちろと子猫のように指を舐め始めたのは、今より少し昔の話だ。
 指が好きなのだという性的趣向はオレには理解出来ないのだが、遊星が好きだと言うのだから勝手にさせている。指先に意識をさらわれて、吐息を荒くしながら理性と葛藤している遊星を眺めているのは嫌いじゃない。
 えずきながら、遊星はオレの指を咥え込む。親指を舐めていた舌は人指し指を伝って中指へと辿り、指の腹あたりに音をたてて吸い付いている。手の甲に浮いた骨を、遊星の手が何度も愛撫していた。

「ぅ、ん!? んんん、ぐぇ、ふぁ」

「なんだよ。好きなんだろ? これ」

「かはっ、うぇ、ふうぅ」

遊星の口の中に思い切り指を突っ込んで、かき混ぜてやった。柔らかい口壁を撫で、舌を押さえ、自分では届かないような喉の奥を刺激する。
 遊星は苦しそうに目を見開いて、そこからはぼたぼたと大粒の涙が溢れ落ちた。開きっぱなしの口からはひっきりなしに涎が垂れ、意味もない単語だけが吐き出される。クールだ無愛想だと評される遊星の姿はどこにもない。
 ひゅうひゅうと遊星の喉が収縮している。異物を吐き出そうとえずき、その度に遊星は眉を寄せて、肩を震わせて、苦しそうにした。けれど、それでもオレの指を必死になって追いかけて、舌を這わせようとするところを見れば、遊星自身も満更ではないのだろう。

「遊星ってマゾヒスト?」

「ふぐ、ううう」

まなこを伏せて、遊星は首を振る。
 少し指を引いて舌の辺りで遊ばせていると、待ってましたと言わんばかりに遊星の舌が指先を這った。根元の辺りを甘噛みされ、指先に向けて、つう、と舌でなぞられた。
 苦しいのだったら一時でも指を放したらいいのに、荒い吐息に全身を奮わせたまま、遊星はその行為を続ける。やはり遊星には被虐趣向があるのかもしれない。
 そのまま遊星の好きにさせていると、手を裏返しにされ、間接の裏の骨を柔く噛み始めた。そういえば、指に浮き出た骨や血管が好きなのだと以前言っていた気がする。

「遊星、遊星」

呼んでみると、遊星は涙で晴らした瞳でこちらを見上げた。

「腰、揺れてんだけど」

オレの手を掴む指先に妙に力がこもったかと思ったら、必死になって堪えるようにしながらも、遊星の腰がゆるゆると揺れていた。
 気まずそうに遊星の視線が下がる。藍の瞳は挙動不審にちらちらと動いて、ふーふーと吐き出される荒い吐息は熱に犯されているようだ。

「それどうなってんの? もう半分くらい勃ってんじゃねぇ? パンツの中はもうぐっちょぐちょだったりしてな」

「ーーっ!」

泣きそうに顔を歪めて遊星は首を振る。堪えようとしているのか、立てた歯がカチカチと指に当たって痛い。しかし、それでも腰は揺れたままで、立てた膝までガクガクと震える始末だ。
 そういうことをするから、よけいに虐めたくなる。

「ふぅ、んあ、あ……」

 遊星の口から無理矢理指を抜く。名残惜しそうに遊星は甘い声をあげ、震える手がこちらへと伸ばされる。その手を床へ下ろしてやって、長めの前髪をぐいと掴んで、無理に上へと向かせた。

「指舐めてチンコおっ勃てるなんて、とんだ変態だなぁ、遊星?」

「いっ! あ……、ちが……!」

「違わねぇ。満足させてやるよ、変態」

ぐっと顔を近づけて、耳元で囁く。顔は見えなかったが、遊星の肩は大袈裟な程にびくりと跳ねた。




「ーーっ、ぁ! く……うぁ……」

歯を食いしばって必死に堪えようとする遊星はすごくそそる。
 目を閉じて、身を捩ってオレから逃げようとする。だから、遊星のはしたない下半身を押さえ付けている足に力を込めて動きを封じると、遊星は喉の奥からひっ、と悲鳴のようなものを漏らして喉元を大きく晒した。
 既に硬くなった遊星のそれを、靴の裏で潰すように刺激する。遊星は喘ぎなのか悲鳴なのか、とにかく高い声をあげて身悶えた。
 痛みに滲んだ藍の瞳が、請うようにオレを見上げた。変に力の入った腕は、添えるようにオレの膝にかけられて、悩ましげな吐息に胸が上下する。快楽に呼応するかのように、びくんと腰が震えた。
 快楽に素直になれないくせに、快楽に溺れる遊星は、浅ましくて愚かで、けれどそれがたまらなく愛しく思える。

「なぁ、何が欲しいの? 言ってごらん?」

また強く、ぐり、と音が鳴りそうな程に遊星のそれを圧迫する。靴の縁でなぞるようにしてやれば、遊星は過呼吸にでもなったかのように、ひっ、と息を詰めて、行き場のない熱にうち震える。

「うあ! あぁ、あ……!」

つう、とまた新たな滴が目の縁から溢れ落ちて、それは火照った頬を濡らして首筋を垂れた。
 涎なのか涙なのか、よくわからないが遊星のそれを拭って指先に絡める。
 喘ぎながらも理性と葛藤していたらしい遊星は、今さら生娘のように恥じらいながら、震える唇でオレに告げた。

「……っ、は、あぁ、あ、っのが、きりゅ、のが……んっ!」

けれど言わせてやらない。折角快楽に堕ちた遊星を黙らせるのも幾分か惜しい気がするが、先ほど遊星の顔を拭った指先を、小さな唇を割って口内に捩じ込んだ。

「ふぁ……! ん、んんーー! あう、ううっ」

「嘘ばぁっか」

荒くはぜた吐息の中に異物を入れられ呼吸が困難となった遊星は、ただただ惨めに酸素を求めて舌をさ迷わせ、唾液を溢す。ぐちゃぐちゃと指を混ぜると、遊星の視線は虚空をなぞりながら上擦った声をあげ、同時に股間をなぶってやれば、もう羞恥も外聞もなく、ただ熱の解放を求めて淫らに喘ぐのだった。
 違う違う、そうじゃない、嘘じゃないと、乱れた呼吸の中遊星は言う。
 しかしながら、そもそも、機械整備に精を出す遊星が集中力を欠くことからありえない。遊星は、雑誌を一枚一枚捲るオレの指に意識をさらわれ、ドライバーを放棄したのだ。最初から、遊星の目的は指にしかなかった。
 それにしても、それがわかっていて、こうして指を突っ込んで無茶苦茶に蹂躙してやるオレは、なんて優しい男なんだろうか。
 遊星がオレの指を好きだと言うならば、オレは遊星が指を咥えているときの、涙と涎でみっともなく汚した顔が好きだった。

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