「いったいどういうことなんだよ! なんでジャックが……っ、よりによって、なんで遊星、お前の……あああ! くそっ!」

「落ち着けクロウ」

「落ち着けるわけねぇだろ!」

右往左往歩き回っていたクロウは、そこでキッと足を止め、遊星の方を振り返りました。しかしそんな一方で遊星は、ジャンクを丁寧に品定めしては、取捨選択を行っているのでした。

「なんでジャックがお前のDホイールとスターダストを盗んでシティなんかに行ったんだ! あのDホイールとスターダストが遊星にとってどんなものか、それはジャックだってよくわかっていたはずだ!」

「クロウ、これはダメだ。配線が完全にイカれてる」

「遊星!」

クロウの悲鳴のような声は、きんと遊星の聴覚を刺激してゆきます。明確な説明を求める切実な声に、遊星は別のジャンクに手を伸ばしながら答えました。

「それがあいつの望みだったんだ。俺はジャックの夢の邪魔はしない」

「遊星……お前ってやつはさ……」

咎める言葉を幾度か探し、しかし無駄であると判断した彼は、力尽きたように大きく息をはいて蹲りました。
 こうしてクロウと再会するのは、実に半年ぶりでした。幼い頃は毎日一緒にいたというのに、鬼柳の死を境に、すっかり疎遠でいたのです。
 しかしクロウはそれまでと少しも変わらず、ただ遊星を気遣う言葉のみをこうして投げかけてくれるのです。口には出しませんが、遊星はクロウに心底感謝しておりました。

「お前はジャックを甘やかしすぎなんだ。だからあんな我が儘坊主になっちまったんだよ。第一、お前まだ引きずってんだろ? あいつのことをさ」

あいつ、それが誰のことを指しているのかは明白でした。救世主であり兄であり、しかしそれ以前に親友であった男です。
 遊星は持っていた鉄の箱らしきものを何度も吟味して、それからドライバーで手際よく箱の上蓋を外しました。どうやらモーターのようでした。これは使えそうだと、遊星は持ち帰り用の木箱にそれを納めました。

「そうだな。俺は鬼柳のことを今でも引きずってるし、もしかしたら一生そうかもしれない。鬼柳の死は俺の人生を変えるものだった。それは認める」

だが、とジャンクを持ち上げながら、彼の唇は小さく上下します。

「俺はジャックを甘やかしてなどない」

「けどお前は現に、あいつの我が儘に付き合ってDホイールもスターダストも渡しちまったんだろ? 同じことだ」

「Dホイールもスターダストも、ジャックに渡したつもりはない」

その言葉を疑問に思い、クロウが訝しむと、遊星は木箱を抱えてすっと立ち上がり、海の向こうを、透き通るように見つめているのでした。どんな感情かは知れませんでしたが、彼の横顔は、何か決意を抱いた者のそれでありました。

「シティに行くのはジャックの夢だっという。その夢を俺は否定なんかしないさ。だが、Dホイールとスターダストは俺の夢だった。俺の夢は、返してもらう。あいつは俺に言ったんだ。背を向けるな、前を見据えろ、殴り飛ばすくらいの心意気を見せろと。ならばその通り、一発殴らせて貰わないと俺の気が済まない」

「遊星、お前まさか……」

合点がいったようで、クロウははっとしたように遊星を見上げました。遊星の視線の先には、ビルが背を競う、シティの街並みがありました。心なしか、木箱を抱える遊星の手に、ぐっと力がこもったように思えました。

「クロウ、俺はもう一度Dホイールを作る。今度は何ヵ月……いやもしかしたら何年もかかるかもしれない。それでも俺はDホイールを作る。そして、自分の夢を取り戻しに行く」

遊星の藍色は、ただただシティに向けられたままでありました。そしてその瞳は、いつかのように輝いて見えたのです。



箱庭アインザッツ
end

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