わたしの世界は渇いていました。さらさらと砂ばかりが流れて行きます。赤茶けた大地には不似合いなほどの青い空が、とても綺麗でした。
 穴まみれになった山々は暴かれて、歪な等高線を築いています。その山で成功を夢見る男たちは醜く、疲れたように働く彼らは、まるで操り人形のように思いました。
 夕方になれば、働き手を求めて争いが起こります。悲惨な運命を決める戦いだというのに、周囲の人間の笑みは、快楽を感じているようでした。対して、太陽が高く上っているときの町は、眩しすぎるその光に目を閉じているようでした。本当の光はそこにあるというのに、誰もそれを見ようとしないのです。
 皆、鉱石から生まれた光に目を奪われていたのです。わたしは、そんなものはいりませんでした。引き離された父が、悲痛に喘ぎながら掘ったであろう鉱石による繁栄など、わたしはいらなかったのです。


 大地はもう枯れました。枯れ草のみが風に揺れるだけで、砂礫の大地には花の色も映しません。そこから生まれる鉱石など、少しも大地を潤さないというのに。
 父のいない寂しさにも、砂による焼けつくような喉の痛みにも、もう慣れました。けれど、何度だってわたしは願います。父の抱擁を。そして、この地に潤いの雨が降り注ぐことを。そのためにわたしは、何度だって祈りましょう。例え、傍らの花が枯れたとしても、わたしはその空に願い続けましょう。何度絶望に苛まれたとしても。


 鉱石による利益など、所詮は一時のものでしかありません。しかし、それに気付かぬ者たちは、大きな口で笑いながら、大通りでワインをたしなむのです。たとえ大地か枯れ、人々が渇きに飢えても、自分たちにワインさえあれば、彼らはそれで幸せなのです。あぁこのままでは、この町は彼らに殺されてしまう!
 疲れた町の人々の心は、この地同様に枯れてしまいそうでした。わたしはいつまでも祈り続けます。けれど、それが果たして、この町をどう救うというのでしょう。わたしの切なる思いはいったい誰に届くというのでしょう。


 誰にも届くことのないはずだったわたしの思いは、ある日突然、運命の鐘を鳴らしました。荒野の向こうからやってきたその人は、薄暗い影を纏いながらわたしのまえに現れました。人々は彼を死神と恐れ、軽蔑しましたが、わたしは少しも、そんな風には思いませんでした。
 彼は強い人でした。しかし、利益に目を眩ませることなく、彼は自分のために戦い続けるのです。弟同様に、わたしもその姿に救いを求めました。この人は、この町の大人たちとは違うのだと感じたのです。そしてその思いは、間もなく確信へと変わりました。
 あぁ、わたしは、偽りの光による抱擁などいらない! その鉱石による支配など、夕日のなかだけの虚像でしかないのです。この町はいつまでも夕暮れです。しかしいつか、この町にも朝がやってくるでしょう。わたしはそれが彼なのだと信じてやまないのです。彼はこの町に朝を連れてくるでしょう。そして、この渇いた地に恵みの雨を降らすでしょう。
 わたしは富を欲しない。ただこの飢えた地に、救いの雨があらんことを。わたしは何度でも願いましょう。美しい空の髪をもった、その救世主に。



元にしました
(晴/れ/す/ぎ/た/空/の/下/で:志/方/あ/き/こ)
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