ジャックに抱きついてみた。背中からがしっと。デカくてゴツくて、女が抱きすくめられるには丁度いいかもしれないが、抱き抱えるには全く適さない。満足できない抱き心地だった。
 ジャックは奇声をあげた。鬼柳!何をする貴様あああああ!と片手を振り上げて。バカ野郎被害者は俺だ。何が悲しくてこんなでっかい男に抱きつかなきゃいけねぇんだよバーカ。二度と俺に近づくなよこの変態ホモ野郎。するとジャックは、貴様から抱きついてきたんだろう!なんて喚き散らして。あーあわかってねぇなジャック、スキを見せたら世の中負けなんだよ。ざまぁ。鬼柳!貴様俺と会話する気はあるのか!その問いには笑いで答える。まったく、ジャックは面白い男だ。これだから、こいつをからかうのはやめられない。



 クロウに抱きついてみた。クロウはノリがいいから正面から。クロウは、気持ち悪ぃな、くっつくな!と言いつつもちゃんと相手をしてくれるから好きだ。だけど、ノリの良さと抱き心地はまた別問題で、クロウはクロウなりにちゃんと筋肉がついてるし、俺にジャストフィットするには、ちょっとばかしアレが足りなかった。
 なぁクロウ。俺の手のひらに拳を打ち付けてくるクロウに向かって話しかける。あ?なんだよ?とクロウは手を止めずに聞き返す。だから俺は言った。お前さぁ、身長何センチ?
 クロウの手が止まった。だけどそれは一瞬で、すぐにその手は本気で俺の顔面を狙いはじめる。てめぇケンカ売ってんのか!っつって。クロウに肉弾戦で負けたことはないけど、当たれば痛いもんは痛い。至近距離で打ち出されるパンチをギリギリで避けながら、俺はその質問を後悔する。違ぇって!深い意味はねぇ!と弁解しても、クロウは三角に目をつり上げて言う。鬼柳、自分より身長があからさまに低い奴に身長の話をすることがいかに危険なことか教えてやるぜ…!と。いつになくクロウが怖い。とりあえず、全力で遠慮の意思を伝えて、俺はその場をあとにした。



 遊星の前で両手を広げてみた。遊星は困ったように眉を寄せて、戸惑うその様子をおかしく思いながら、ちょいちょいと手の動きで遊星を呼んだ。遊星は小動物みたいに警戒しながら、おずおずとこちらに歩み寄ってくる。そのもどかしさもまぁこいつの個性で、それごとがしっと、俺は遊星の体を抱き寄せた。
 筋肉の付き具合も、身長も、感触も、温かさも、遊星が一番しっくりきた。ちょうど両腕の中に収まる感じ。あぁこれだよこれ。その心地好さを堪能するように、遊星の髪に顔を寄せる。それから空いた手でわしわしと頭を混ぜてやれば、遊星は頭上にたくさんクエスチョンマークを並べて俺を見上げた。その顔が可笑しくて、また俺は笑う。するとますます、遊星は困ったような顔をするのだ。まったく、この遊星という男も面白くて仕方ない。
 遊星の頭をぽんぽんと軽く叩きながら。やっぱりお前が一番だわ、と言ってやる。遊星は色々と釈然としないようだったが、ひどく小さな声で、そうか、とそれだけ言った。うん、お前が一番だ。



(鬼柳さんと幼なじみたちがまだ出会って間もない頃)
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