#ac1_total# ドンガラガッシャン、ドンガラガッシャンってさっきから下の階でするうるさい物音のせいで目が覚めてしまった。 せっかく心地よく布団で寝ていたのにとんだ迷惑ったらありゃしない。 布団の近くにある時計を見ると時刻はまだ夜中の三時。こんな夜中にいったいなんなんの?いくらバッドエンド王国の奴らでもわたしの眠りの妨げをしたら誰が相手でも許さない。 とりあえず、わたしは温かい布団から辛い思いで抜け、冷え切った寒い廊下にでて、階段を下り物音がするリビングまで行った。 いきなりバンッと戸を開けても構わなかったけど、あの出来損ないの…、もう一人のわたしの父と母まで起きてしまうのは悪いと思ってそれはやめておいた。 まああの出来損ないは心配なんてしなくても夜中起きたりしないから大丈夫。 そっと戸を少し開け、そこから目だけでこのうるさい物音の正体を確かめる。 あっ!と、覗いた先に台所で何かをしている人影を発見した。 あいにくリビングの電気は消えていて、台所の電気だけついているから正直誰が台所立っているかわからないけど、そこからキラリと輝く包丁をそこにいる奴は持っていた。 これはとんでもない迷惑な奴が上がり込んできたなと思って、わたしは嘆息しつつそっとリビングに足を運び、包丁を持っている奴に気づかれないように近づいて、一瞬のうちに後ろをとってこの家に上がり込んできたことを後悔させてやろうと思って、慎重に足を運ばせていると、 「やーーー!いった!また切っちゃったぁ!」 「!?」 突然、台所からしたその声の主は、いかにもあの出来損ないの声でわたしは慎重に構えていたのも忘れて、急いで台所のほうに行くとそこには、あの出来損ないがこんな夜中に甘ったるい匂いを充満させて料理をしていた。 「………なにしてんの?あんた…」 「きゃあああ!?バ、バッドエンドちゃん!?」 わたしの姿を見るなり驚いて夜中だってのに気にしないでうるさい奇声をあげるこの始末。ほんとになんなのこいつは。 「今何時だと思ってんの?ドンドンうるさいったらありゃしない。わたしの眠りの妨げにした罰は軽くないわよ?え?」 「あ、あぅ……ご、ごめんねー…」 あははと苦笑いする出来損ない。 なに笑ってんのよ。こいつわたしを舐めてんの? 「うっっわ…なにこの物体……。気持ちわるっ」 「わ、わぁ!!み、見ないでっ!!」 なにをこんな夜中にそんな作っているのかと思って近寄って見てみると、茶色くてドロドロしててグチャグチャしてて、まあ一言でいうと気持ち悪い物体。 あの出来損ないは慌ててわたしを追い払おうと突進してくるわでほんとに迷惑。 「だいたい、なんでいきなりこんな夜中にこんな気持ち悪いもん作ってんのよ。近所迷惑なの。今すぐやめなさいよね。」 物音がうるさいのもそうだけど、見る限り台所ももうなんかグチャグチャですごいことになってるし、これ出来損ないの母が朝起きて来てこんな状態になってる台所を見たら朝からいい迷惑どころじゃない。 「や、やっぱり…気持ち悪いし…ヘンかな…これ……。いちようわたしなりに頑張って作ったんだけど…」 「……っ、」 でたよ。こいつ特有のすぐ落ち込むところ。だいたいなんで料理下手なの自分でわかっててこんなに一生懸命作ってんだろ。ほんと人間って意味わかんない。 でも、ほんとにわたしも…、自分自身も意味わかんない。 こんなどうでもいい奴のちょっと落ち込んだ顔を見ただけで、わたしまで胸が痛む。 ほんと、わたしもこいつもバカね。さすがこいつを基に作られただけあるわ。 「……ぱくっ」 「あ!ちょ、バッドエンドちゃん!?」 まな板の上に置いてあったグチャグチャの意味不明な気持ち悪い物体を口に運ぶと、口の中いっぱいに甘い味が広がった。 「あ……あの…、やっぱり…おいしくないよね……。こんな……こんなのなんか……。」 「おいしい」 「え?」 「あ!?」 ついつい、ぽろりと言葉が出てしまい何を口走っているのよと顔の辺りが熱くなるとともに、あの出来損ないはさっきまでの落ち込んだ顔なんて消え去って、「ほんとに!?」と目を輝かせてくる。 「ま、まぁ……。あ、味は悪くないけど見た目がダメね。これは、こうしたほうが…、」 「あ!なるほど!あっ!すごぉい!なんか見た目がかわいくなったー!」 「これをデコレーションしてもいいんじゃないの?こうして…、」 「え?えっと……こう?」 「そうそう。あんたにしては良いじゃない。」 「そ、そうかな……!」 「もともと味はそんなに悪くないからあとはこういう見た目ね。これもこうしたほうが見た目いいんじゃないの?」 「あ!ほんとだ!すごいなぁ!バッドエンドちゃんは!」 さっき「おいしい」なんて変なこと口走ってしまって、その照れ隠しになんとなく見た目の悪いこのチョコらしき物質のデコレーションのアドバイスを少ししてやったら、やけに持ち上げられてしまい、それからついついこの出来損ないのお菓子作りを手伝ってやってしまっていた。 * 「ふー!これでみんなの分作り終わったよー!」 気がついたときには、もう外が薄暗くなっていた。時計に目をやるともう朝の五時を回ろうとしていた。 なにをバカみたいに乗せられて一緒にこんなの作っているんだ…。 自分の克服目標である、こいつのペースにすぐ乗せられないようにするという目標をまた忘れてしまいこんなことになってしまった。何してるの。ほんとに…。 でも今まで乗せられて作ったりしてたけど、なんで今日いきなりこいつが夜中に一人でこっそりとお菓子づくりをしているのか疑問に思った。 「ねえ、なんで今日こんなことしてんの?明日なんかあんの?」 「え!?バッドエンドちゃん、明日何の日かしらないの?」 なんだか驚かれてしまったんだけど。え?なに?なんなの?明日ってそんな重要な日なの? 「明日はね、バレンタインデーって言って好きな子にチョコをあげる日なんだよ。」 「……ふーん。好きな人にねぇ。」 そんなことのために、寝る間を惜しんでこんな寒い中チョコ作りをしていたなんて、ほんとお人好しなのか、ただのバカなのか。 「で、そのあんたの好きな人っての中には、わたしは入ってたりすんの?」 「え?」 「あ、」 また言ってから自分がとんでもないことを言ったのに気づく。 もうこれで二回目となると恥ずかしいったらありゃしない。 顔の辺りが熱くなるのは当然のこと今にもこの場から逃げ出したい衝動にかられる。 とりあえず、わたしは言ったあとに気まずくなって、出来損ないから顔を背けた。 こいつに今のこんな恥ずかしい顔見せたくないもの。 「うん、バッドエンドちゃんもわたしの好きな…、いや、大好きな人だよ。」 二人しかいない狭い台所で、出来損ないのクサい言葉が響いてもう余計あいつのほうなんて見れない。 「今日だって、手伝ってくれて、いっつもいっつもひどいことばっか言うけど、本当は優しいバッドエンドちゃんをわたしはちゃんとわかってるよ。」 やけに響きわたるあいつのクサい言葉に、わたしは自分の情けない心臓音が響かないか心配で、 「本当にありがとね。いっつもありがとね。わたしはこれからもずっとバッドエンドちゃんが大好きだよ!」 うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!! あいつの声も、わたしのバカみたいにドクドクいってる心臓も全部うるさい!! 「バッドエンドちゃん…?」 わたしがいつまでも出来損ないから目を背けているのに何か気が触ったのか、きゅっとわたしの手を勝手に握ってくる。 何勝手に触ってんだこいつ。やめてよ。 今あんたのせいで手だって熱くて汗ばんでるのに、触んないでよ。 ほんとに触んないでよ。 放して。 これ以上こんなヘンな気持ちにさせないでよ。バカでアホで何にもわかってない出来損ないが。 |