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ありりつ | ナノ
「今夜、お月見なんていかがですか?」

午後三時のお昼寝するにはちょうどいい時間と久しぶりに晴れたその日に突然ありすからの電話がきた。

「月見?ちょっと季節的に遅くない?もう秋も終わり頃じゃない?」

月見、と言えば十月のイメージが強いのに、ありすが誘ってきたのは今日、十一月のことだった。突然のありすの不明な誘いに疑問が浮かんだけど、ありすはいつものように「あら」と答える。

「まだ十一月の初旬じゃないですか。それに十月中は台風やらなんやらでお天気日和な日もありませんでしたし。それに今日は満月らしいですわよ。ぜひ六花ちゃんと見たいと思いまして。」

ありすにそう言われてみると、なんだか言い返せなくなる。確かにまだ秋は終わり頃じゃないかもしれないとか。なんだか自分の中でありすは少し遠い存在にいる人間だとこの頃思ってしまう。やっぱり家柄も私とマナとなんかじゃ比べものにもならないし、なんだかんだ言ってるけど、本当は私よりも頭がいいし、私よりも強いし、

「六花ちゃん……?」

「え、あ!」

つい物思いにふけってしまっていたらありすが心配そうな声のトーンで電話越しに呼びかけてきたのに私は我に返った。

「えっと…もしかして本日予定がわるいですか…?」

「え!?そんなことないわ!大丈夫!えっと、マナやまこぴーたちには連絡したの?」

お月見をするのだから、みんなで一緒に見るのだろうと思いそう言うと、電話越しにありすの声が消えた。

何か、考え事をしているのかわからないけどしばらくたっても何も返事がないので今度はこっちから「ありす?」と呼びかけるとありすは慌てたような声のトーンで「す、すいません!」としばらく返事をしなかったことに謝ってから言った。

「わたし、その、えっと、」

「うん?」

いつものありすにしては歯切れが悪く、おどおどしてなかなか言い出そうとしない。
何か悪いことでも言ってしまっただろうかと少し考えてみたがとくに思い当たらなく、ありすの途切れ途切れのおどおどした声をただ聞く。

「え、あの、その、た、たまには二人きりで、な、なんて、ど、どうでしょ、う……?」

「二人で?」

何をそんなにありすが戸惑っているのかは知らないけど、ありすと二人きりなんて珍しかった。
だって、私たちはいつも三人で行動していたから。マナと私はいつも二人でいるけど、ありすと二人きりなんて随分久しぶり…というか珍しかった。

「あ!あの!べつに深い意味はありませんわ。ただたまには六花ちゃんと二人きりでというのもいいと思いまして!」

私と二人きりなんてことに何を戸惑ってるのかわからないけど、ありすの意外な一面に私はつい、ふはっ、と笑いをこぼしてしまった。

「べつに、そんなにかしこまらなくても。今日の月見大丈夫よ。何時頃にありすの家に行けばいいの?」

「え、あ、ありがとうございますわ。こ、こちらこそ取り乱してしまい申し訳ありませんわ。」

私の返事に、まだ何か緊張して戸惑ったように返事をするありすにまた笑いがこみ上げてきてしまった。

ありすにもなんだか可愛い一面があるんだなって。





「お待ちしておりましたわ。六花ちゃん。」

ありすと約束をした夕日ももう沈んできている午後五時にありすの家まで行くと、いつものように可憐な笑顔で出迎えさせられて、あの電話でのありすは何者だったのか少し不思議に感じてしまった。

「うん。今日は誘ってくれてありがとね。」

「いえ。あ、セバスチャンが満月がちょうどよく見える時間は八時頃と言ってましたので、それまでうちでディナーなどどうでしょうか?」

「あ、いいの?ちょうどお腹空いてたのよね。」

「大歓迎ですわ。さあ、どうぞこちらへ。」

そう言って私を食事する部屋まで招いたありすも、あの、電話でのありすではなかった。



「わあ…すごい…!」

夜ご飯もご馳走になって、八時になってありすと一緒にお月見セット(お餅とかお茶とか)を持ってベランダに出てみると、そこには綺麗な満月があった。

「本当ですわね。」

最近雨も降ってたし、そもそも月なんてあまり眺めたりしないから久しぶりに月を眺めてすごく興奮する。月ってこんなに綺麗だったんだなって。

横にいるありすの顔をなんとなく見ると、ありすも今日の満月を見てうっとりとしたような顔をしていて自分と同じようなことを思っているのかななんて思うと少し嬉しくもある。

「今日は、本当に月が綺麗ですわね。」

ありすが私のほうを向いてそう笑いかけたとき、ふと…、

「なんかこのムードでそんなこと言われたら告白みたいに聞こえちゃうわね。」

と笑い混じりで、思ったことを口にすると、ありすは「え!?」といきなり声を上げ顔を赤くした。

「こ、こくは…く、ですか…!?」

「知らない?今日は月が綺麗ですね。って夏目風の告白なんだって。本で読んだことあるのよ。」

「あ、ああ…」

なんだか冗談で口にしただけなのに、ありすはなぜか黙り込んで俯いてしまった。
何か、変なことを言ったのか考えて見たけど何も思いつかないので、私は皿の上にある餅をほおばった。

「あの、」

あのときと、電話のありすのときと同じようないつもの冷静さのない戸惑ったような、震えたような声がした。

「きょ、今日は月が綺麗ですわね。」

「え」

とっさに、ありすの顔を見た。
だって、あのありすが震えた声で言ったから。
何かと思って、とっさに顔を見たら、

今にも爆発しそうに顔を赤くしたありすがいた。

「え…」

ありすの真っ赤な顔を見て頭が混乱する。
だって、さっき私が「月が綺麗ですね」って言葉は告白するときの台詞なんだよ、って言ってから、こんな顔を赤くさせて、それを言うってことは、

「あ!さ、寒いですわね!わ、わたし毛布を持ってきますわ!ちょ、ちょっと待っててください!」

私が頭をぐるぐるさせていると、ありすはそう言って走って言ってしまった。


ありすのことだから、人をからかって楽しんでいるんだわ。そう。そうだ。

ありすが私のことを好きなわけなんてない。

そう、そうだ。そうよ。

そう、そうなのに、なんだか私まで顔が熱い。きっとバカみたいに顔を真っ赤にさせてるんだろう。

ねえ、ありす、ありすのせいで熱いから毛布いらないよ。
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