たらふく | ナノ





顔がひきつっていくのを止められない。私の人生これにて終了と頭の隅で垂れ幕がかかった。何でこう立て続けに、しかもピンポイントにリボーンの中でも危ない部類の人と出会うわけ?!

一体私が何悪いことしたってんだ!


「何ぼーっとしてんだよ、何か作れ」

「……へ?」

「何だあ?この"ニクジャガ"ってのはぁ!」

「ブフォ!……あ、いや何でもありません」


あのスクアーロが肉じゃがって……!そんな家庭的なものの名前出さないでよ。ギャップには堪えられませんってね。熱心にメニュー表見てるけどそんなにお腹減ってるの?ルッス肉買ってったよね?


「……何か変コイツ。王子こんな奴が作ったもん食うの嫌なんだけど」



プチン


だったらとっとと帰ってくれ。開店前に来といて「俺王子だから」って変な理由でカウンター席に座って文句たれるならさっさと他を当たれ!
まぁね。口が裂けてもそんなこと言えませんがね。むしろ裂けた途端いろんなとこ切られちゃうからね。


仕方ない……ルッスにもらったお肉をこの二人に出すとするか。スクアーロさん、いつまでメニュー表眺めてんですか。


「あ、ちなみに朝っぱらから肉はいらねーから」

「(じゃあどうしろと)」

「タコヤキ……不思議なもんばっかりだぜぇ……」

「…………」


今あるのは買ってきた食材と、ちょっとしたおかずのみ。生憎お米はまだ炊けてないし、パンはあるけど正直それは私の朝ご飯でこの二人のお腹を膨れさせるほどの量もない。かといっておかずだけだしても……。
あ、そういえば!


「ちょっと待っててください。すぐ作りますんで」


うどんが残っていたことを思い出して、それにしようと決めた。キャラと関わらない、その掟は今だけ忘れることにしよう。私が無傷で帰ってもらうにはこの人たちの胃袋を掴む以外に方法はないのだから。


「しししっ久しぶりこの感じ」

「ああ全くだ」

「……何がですか?」

「静かで且つ物が飛んでこねーとこで朝飯食うことがだよ」

「ああ…………そうなんですか」


聞いた後で、何だかひんやりと心が冷めていく。聞かなきゃよかった。


「今日のボスはすんげー機嫌悪かったな」

「ああ、いつもより磨きがかかってたぞぉ……ルッスーリアのやつ生きてんのかぁ?」

「しーらね。ボスの腹時計に1秒遅れたオカマがわりーの」


――ガシャーン!!


「「あ?」」

「いいいいいえ、何でもごごございません」

「大丈夫なのかよココ」

「知るかぁ」


い、今の話が本当ならルッスがヤバイのって私のせい!?いや、でも私が話しかけたわけじゃないし……!てかほんとにそんな暴れん坊将軍なんだ、あの人って……。
関わりたくない、絶対に関わりたくない。私はまだ生きたいんです。だって人間だもの。(あ●だみつを)


心の中でルッスにスライディング土下座を披露して、生きてますようにと天に祈った。まぁ何だかんだ生きてるだろうけどさ。


「お待たせしました」

「……何だこれ」

「ヒモみてぇだな……」


パスタとそう変わらないと思うんだけどなぁ。不思議そうにうどんを眺める二人にとりあえず割り箸を渡す。
割り箸も初めてだったみたいで、割るところを見せたらベルが口笛を吹いた。


「つーか王子こんな貧乏臭いモン使わねーから」

「なっ」

「気にすんなぁ、箸がうまく使えねえだけだあ」


スクアーロはそう言いながら慣れない箸でうどんを掬おうと格闘していた。あんたも使えないんかい。うどんは汁の中を逃げ回り、掴めたと思ったらツルンとすべって勢いよく落ちスクアーロの顔に汁が飛んだ。「あづっ!」と叫ぶ彼に必死に笑いをこらえる。
でもどこか楽しそうにしていて意外とこの人好奇心旺盛で間抜けなんだなと少し印象が変わった。……問題はベルだ。




「……わかりましたフォーク出します」

「俺はいらねぇぞぉ!!コツつかんだからなあ゙!」

「じゃあ、君はこれどうぞ」

「……カッチーン。お前王子のこと馬鹿にしてるだろ。何だこのクマのフォーク!お前今すぐサボテンの刑!」

「ち、ちょっ、馬鹿にしてなんか……!」


いや、したのは確かだけど先に馬鹿にしてきたのはあんたでしょ!しかも割り箸馬鹿にするなんて日本を馬鹿にしてるのと同じだからね!?
……ああでもそうか。この人に普通の尺度でものを言った私が悪かったんだ。何てったって何様俺様王子様なベルフェゴールだもんね。それと、スクアーロさんはガン無視ですか。そうですか。何卵優しくつついてんだ。この人のイメージがどんどん潰れてくんだけど。


ってやめてえええ!ナイフ、ナイフしまって!お願いだからやめて!大人しくうどん食べてよ!こうなったら……!


「それはホッキョクグマです!」

「は?だからなんだよ」

「肉食獣最強の動物ですよ!?」


ピタッ



「…………?」

「……腹減った」

「ど、どうぞ食べてください……?」

「ん」


……えええええ。この人ちょっと気分屋過ぎない?さっきまで出していたあのナイフを(生で見れて実は嬉しかった)ゆったりとしまって、そのままホッキョクグマのフォークでうどんをズルズル食べていく。
ねえまさか……肉食獣最強って言葉に気をよくしたとか……ち、違うか。そんな単純で子供っぽいことあるわけないよね!


「あの、それよりさっきから気になってたんですけど」


――カランカランカラーン


やっと素直に食べ出したベルを見た後、少し荒々しくたらふくのドアが開いた。バッと振り返った二人の動きは、とても俊敏でヴァリアーらしさがやっと見れたというか何というか。


後ろを振り向くとき、二人ともつるんっ、と、うどんをすすりながらだったことには爆笑したくなったけど。
ちなみに私は今の訪問者が誰なのかは見なくてもわかる。


「おはよう愛理!今日も美しいね(はあと)」


無駄にウィンクを送ってくるソイツに殺意が芽生えたのは、きっと私だけじゃないだろうと思う。

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