たらふく | ナノ





「ぎゃーー!!ベルさん達がいないからって調子のるなーー!!」

「いいじゃないか!だってほら、愛理と俺の関係だし」

「店主と宅配業者の関係以外何もない!!」


ーーカランカラン


ロンさんと朝っぱらからよくわからん喧嘩を繰り広げていたら、また無情にもたらふくのドアが開いた。なんでこうみんな開店時間守ってくんないの、いっそ鍵でもつけようか。って普通つけてるもんか。

ロンさんも私も視線をそちらに向ければーーナンテコッタ!!


「È un presente.(お届けものです)」

「えっあの、ちょっ、ちょっと?!」


お届けものですと青年が言ったと同時、ダンボール5個が次々と店内へ運び込まれた。私通販してないよこんなに物買うほど飢えてないよ!!
……ということは誰かから?


「ろ、ロンさん、誰からか聞いてください!そして中身も!」

「聞くから今度俺とご飯ね」

「あ〜〜〜もうわかりましたから早く!!」


簡単なイタリア語なら聞き取れるようにはなったものの話すのはまだまだダメだ。ロンさんの唯一尊敬できることは日本語英語イタリア語ドイツ語……あとなんだっけ?とにかく8カ国以上の言語を話せるところ。その脳みそもっと別のところで発揮しなよ勿体無い!
そんなロンさんは生粋のイタリア人である。


「ま、マシュマロ……?」

「へっ?」

「これ全部マシュマロらしいよ」

「ハハン、白蘭様からの差し入れです」

「差出人は白蘭っていう人だって。てかこの人日本語喋れたよ……って愛理?」

「……だからぁーーもうーー」


なんでこうなるんだよ!!








「マシュマロ……何回見ても全部マシュマロ……」

「愛理、さっきから当たり前のことを何回言うの?」

「馬鹿!当たり前のことを言いたいんじゃなくてこれはなんで全部マシュマロなんだよ……っていう落胆の気持ちを表す言い回しなの!」

「そ、そうなの?日本語って難しいね」


もううるせえそこ黙れ!てゆうか帰れ!思考の邪魔だ!つーかハハンの人!優雅に紅茶なんて飲んでないでマシュマロ持ってさっさと帰りやがれ!

……まあ紅茶出したの私ですがね。

だってこの人どこから出したかわからない恐竜の超リアルな置物を「これは私から」とか言って渡してきたんだよ。ハハンの人、名前思い出せないんだけどどんな能力なのかはかすかに覚えている。なんか恐竜出せる人だよね。またこれちゃんともてなさないと死亡フラグ立つ。てゆうか申し訳ないけどこの置物飾るとこねえよ……。


「これ……マシュマロ……もらっちゃっていいんですか?」

「ええ、遠慮はいらないとおっしゃっていました」

「そうですか……(遠慮じゃなく本心でいらないんですが)」


ハァ、どうしよう。こんなことなら宇宙一受けたい授業って番組でたまぁにやってるマシュマロ使ったお菓子のレシピとか覚えとくんだった。おいしそうだな〜なんて思いながら肘ついてテレビみてたよ。そこ、女子力ないとか聞こえたけど私の空耳?

困った時はクックパ◯ドだけどこちらの世界にはない。私はロンさんに頼んで日本の家庭料理の本を何冊か買ったからご飯はなんとか出来るけど……。マシュマロ使ったレシピなんて元の世界でもそんな見たことないよ。


持って帰ってくださいなんて言ったらどう反応するだろうか。意外に紳士だったような覚えがあるから「そうですよねこんなにもたくさんもらっても困りますよね」ってニッコリ笑って退散してくれたら一番なんだけどーー。

そう思いながらチラッとハハンに視線を移せば向こうはこちらを見ていた。それに思わず今まで考えていた思考が頭の中から逃げていく。
ななななんだあの怪しい笑みは……!すごい圧力が私には感じる。そう、ハハンは目だけで私に訴えている。


こんな荷物な物を帰りも持たせるなよと……!知るか!あんたの上司に言え!


「う〜〜〜〜〜〜ん……あっ!」


ポンッと閃いたそのアイディアにもう少しロンさんに協力してもらうことにした。今日は明日の仕込みだけしてお店休んじゃお。久々の休暇だ!




***




「お肉ばっかりですね……!」

「ハハン、イタリアではほぼ肉ばかりなんですよ。日本ではかぼちゃや玉ねぎも焼くそうですね」

「ハイ!焼肉と具材は変わらないですよ!さつまいもとか大好きです!」


てめーらなんの話してるんだ、とお思いの皆様。今日これからバーベキューをすることになりましたパチパチパチーー!!
グッパーしてバーベキューセットを用意しておく人と、買い出しに行く人に分かれました。今頃ロンさんがせっせと私が言った野菜を切ったり火の準備をしたりと働いてくれているに違いない。
場所はたらふくの裏庭で。狭いけどちゃんと手入れもしてるから草ボーボーとかではない。頑張ってるよ!ちなみにバーベキューセットはたらふくの物置部屋にずっと眠っていました。本当、私をこの世界に呼んだ人は準備がいいというかなんというか。人なのかは定かではないのだけれど。そこは今触れないでおこう。


「それにしても私まで一緒にいいんですか?」

「構いませんよ!旅は道連れ世は情けってやつですから!」


一通り具材を買って私と桔梗さんの(名前教えてもらった)両腕は売り切れていた。とにかく桔梗さんの買う量がハンパないけど若いしいっぱい食べるんだろう。私はこっちのバーベキューのテッパンなんて知らないし、それっぽいものをポンポン買ってくれる桔梗さんにむしろ感謝していた。
桔梗さんもなんだか楽しそうな顔をしてくれていたので誘ってよかったと心の中で思う。


「……日本のコトワザですね。ハハン、ではお言葉に甘えて」


あ、今度は嬉しそうな顔をした。なんていうかリボーンのキャラってだけで十分に危険な香りがするけど、ベルとかブルーベルみたいに……うーん、なんていうんだろう。好戦的、じゃなくてもっとこう、落ち着いてる雰囲気がある。そりゃやっぱ殺気とか出されたら私はそれに耐えられないだろうし、白蘭の幹部だからめちゃくちゃ強いんだろうけど。
こうして普通にしてる分には年の近い優しいお兄さんって感じがする。学校の先輩といるような、そんな気分にさせてくれる。

私ってそういえば16歳だったと思い出させてくれるよ、この雰囲気。そんな人だからついバーベキューも誘ってしまった。


「りんごのケーキ」

「え?」

「白蘭様があなたのりんごのケーキを気に入っていました。今度私も食べてみたいです」

「ああ!いいですよ!じゃあまた作ります」

「あとその日はブルーベルがご迷惑をおかけしました。ハハン、悪い子ではないんですが」

「いえいえそんな……」


さっきから桔梗さんに少しの違和感を感じた。なんだろう、でも嫌な感じじゃない。むしろこう、あったかい気持ちになる。


……あーなんか、こんなどこにでもありそうな日常会話って久しぶりかもしれない。うちの子がすみません、あなたのあれ良かったわ、またよろしくみたいなご近所会話。元の世界ではご近所に小さい子がいて、兄弟のいない私にはそれがかわいくてよく面倒見させてもらっていた。


「可愛いですよね、妹みたいな感じで」

「ハハン、……私はそういうものではないですが」


これからも、このまま……

すこし掠れた声だったけどそれは何とか聞き取れた。どういう意味が込められたものなのか、その瞬間はわからなかった。けれどまたツナとユニの影響なのだろうかと桔梗さんの顔を見て思う。

白蘭とおんなじかおをしている。この人もきっと今を大事に生きている。知った幸せと仲間と共に。


「……みんなが楽しく生きてられる毎日って本当にいいですよね」


桔梗さんを見ていたらふと思った。

私は幸せな家庭に生まれた。両親も優しかった。ご近所も親切だった。みんなといろんなことをして笑った。あの時確かに楽しいと、心が幸せで膨らむ感覚を感じていた。

本当に幸せだった。

これからもこのまま、それが続けばいいとーー。


ああ、桔梗さんも私と同じ気持ちなのか。この幸せのまま、変わらない仲間と、って。


「……今から私の勝手な独り言を言っても、」

「はい、構いません」

「……少し、前まで、私は白蘭様の行く道が”正”でした。でもそれは途中で行き止まりになりました」


桔梗さんは今歩いている道の遠くを見つめながらそう言った。その瞳に迷いはなく、次の瞬間私へ視線を移してまた優しく笑った。


「私たちにとってその道が間違いだったとは言えません。私たちはその時確かに楽しかったですから」

「……はい」

「ーーでも今の方が私は楽しい、です。こんなこと言ったら白蘭様はどんなお顔をされるでしょう」


桔梗さんは眉をハの字にさせて困ったように笑った。「でもきっとブルーベルもそうだと思います」最後にそう言うと、私の手から一つ荷物を奪ってスタスタと歩き出した。
みんなといる時の桔梗さんやブルーベルはあの時の、漫画のままなんだろう。ただ心の中で人知れず微妙に変わったものがあって、少なからず桔梗さんはそれに戸惑っているんだ。

今を認めたら、未来のあの行動を起こした白蘭を否定するようで。桔梗さんにとっては今の白蘭もあの時の白蘭も自分を苦境から救ってくれた人に違いはない。そしてどちらの道も彼にとっては”正”だった。

む、むずかしい。偏差値普通の私にはそろそろキャパオーバーだけど、でも。

先ほど桔梗さんが持って行った荷物を奪い返し、驚く顔をした彼に言った。今の幸せのままでいい。まっすぐにそれを受け止めていいと思う。私はそれで幸せだった。


「白蘭さんも今の方がいいと思っているはず……!だって白蘭さんも言っていました」




”今は結構充実してる”




「…………」

「嘘はつきませんよ私!」

「ッ、……そう、ですか」

「あっこれ言ったらダメとは言われてませんけど一応内緒で……」

「ハハン、私の気分次第です」

「えっ、えっ、ちょっとーー?!」


桔梗さんの瞳が一瞬キラッと光ったのを見逃さなかった。すぐにいつもの表情に戻ったけれど、幾分か晴れやかで清々しく見える。
ツナやユニだけじゃない。人の心を強く動かせるのはーー白蘭あなたもなんだ。

私のことたらチャンとか呼ぶけど。


青い空のお昼過ぎ。バーベキューの用意をせっせとしてくれているロンさんを思い浮かべながら急いでたらふくへと帰った。

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