薔薇の花園に君を連れていく | ナノ


▼ 得意科目、苦手科目

「赤司くんって得意科目はある?」
「特に考えた事は無いな。」
「じゃあ苦手科目は?」
「それも無いな。俺はテストで満点以外取ったことが無いから、自分では良く分からないんだ。」
「それは人間じゃないよ赤司くん。」
「成績表にも書かれたよ。『人間とは思えない』って。」
「せ、先生…。じゃあ苦手じゃなくて嫌いな教科は?理科の実験が面倒だった、とかさ。」
「そうだな。そういえば、昔は国語の『この時の○○の気持ちを考えろ』みたいな問題が疑問だったな。」
「ああ、小学生の時によくあるやつ?」
「小学校の時に『ウミガメと少年』という戦争の物語を授業で習っただろう。」
「うん。戦争中、少年が浜辺でウミガメの卵を見つけて、戦争の火の粉から守ろうとするんだよね。」
「そう。最後には少年はすべての卵を食べてしまうのだけれど、その設問『どうして少年は卵を食べてしまったのか』の解答が納得できなかった。」
「間違えたの?」
「いや。先生の考えるだろう模範解答を予想して正解した。」
「それ本当に小学生!?」
「模範解答は『少年が戦争によって優しい心を奪われていった為』だったけれど、名前はどう思った?」
「そうだなぁ。最初は必死に卵を守ろうとしていた訳だし、優しい少年だったのは間違いないよね。だから戦争で優しさが奪われたってのはその通りだと思うけど…。」
「俺は優しさは人から奪われて無くなるものではないと思う。」
「ほう…。つまりどういう事?」
「俺は優しさは“余裕”だと思うから、余裕が無いとそれは表に出て来れないんだ。その人間が優しくなくなる訳じゃなくて、余裕を失っているだけで、本当はちゃんと優しい心を持っているんだよ。なのに、この解答はまるで少年が優しくなくなったと言っているみたいで納得できない。」
「まあ、確かにウミガメの卵を守ろうとしている時点で少年は十分優しい子だよね。例え最後に卵を食べたとしても優しい子には変わりない、ってこと?」
「ああ。だから『どうして卵を食べてしまったのか』には『とてもお腹が空いたから』と書きたかったんだ。」
「っぷ。赤司くんって、意外と面白いね。」
「笑うところではないよ。」
「ふふふ。赤司くんって、実はとっても純粋なのかな?」

[ back ]