ただ愛せたらいいのに

「きらいだ」
その言葉にさえ、俺は平然とした顔でこたえた気がする。それはそれは。名探偵、だけど私は貴方が好きなのです。どうしようもない。こんなときばかり昔の癖がでる。名探偵、なんて、最近呼んだこともなかった。

その時の彼の顔はどんなだったか覚えていない。



「あら、なに?びしょ濡れ」
呆れたような声が聞こえる。入れと促されたものの、身体は動かず、しょうがないと彼女は俺の腕を引っ張り部屋へと招き入れた。のが、二時間くらいまえ。

少し狭いベッドに寝転がっていると、シャワーを浴びたベルモットがベッドに腰掛けた。少し不機嫌そうに見えるのは、見間違えなんかじゃないだろう。彼女は髪を丁寧にふきながらじっとりと俺を睨んだ。寝た日はいつもこれだ。まあ、好きあっているわけじゃないからどうってことはないが、気分が悪い。この女王様は自分が一番でないと、優位に立っていなけるば不愉快なのだ。
「また、シルバーブレットのことかしら?」
「…あたり。わかってて聞くなんてやっぱり性格悪いね」
「あら、聞いてほしいから来たんじゃないの?ほんと性格悪いわね、貴方も」
自分の性格の悪さを肯定した物言いに、多少ひいたが今さらだ。俺はベルモットの腕をひき、彼女を組しくと首筋に唇を落とす。そして、数時間まえのコナンを思い出す。拒絶を含んだ瞳は俺を捕らえてはなさなかった。震える小さな身体は、雨に濡れて一層弱々しく見えた。どうしてあんなことになったのだろうか。せっかく彼と想いが通じたというのに、ついていない。──まあ自分のせいなのだが。
わかっていた。知られれば彼に嫌われることも、もう元には戻れないということも。だけど、日に日に自分の手から離れていこうとする彼が、成長していく彼が怖かった。彼はどんなに厄介な奴までも懐にいれてしまう。惹き付ける何かを、彼は持っていた。中学に入ると、もう、彼は俺からはなれていった。いや、実際は形式上お付き合いというものをしていたが、どれだけキスをしても、セックスをしても、彼は自分のものではないのではという気持ちが膨れ上がった。みんなが彼を見る。好意の目で、彼を──。見るな!俺のコナンだ!そう叫んでやることができたのなら、どれ程楽だったろうか。
俺は、彼に好意をもつ人を片っ端から声をかけ、自分に好意をもつよう仕掛けた。簡単なことだ。甘い言葉を吐いて、抱けばいい。女なんて、簡単に股を開く奴ばっかだ。そんな、汚いやつらがコナンに近付いていいはずがない。コナンは綺麗だ。簡単に触れていいはずがないのだ。彼に認められていないようなやつらは、近付くな。触れるな。彼は、俺だけのものだ!
「学ラン姿、かわいいよね」
「…っ…こんなときに、ノロケ?そんなの、貴方に言われなくても知ってるわよ」
「うん。なんかさ、みんなコナンを見るんだ。俺のなのにね。おかしいよ、みんな」
「……そう」
「ねえ、俺が間違ってたのかな?もう、わかんねえよ。コナンの気持ちも、俺も…っ」
本当は、もっともっとコナンと笑いあってたかった。好きなのだ。本当に。なにもいらない。コナンがいれば、なにもいらないんだ。それなのに、彼は意図も簡単に俺の手からはなれていく。

俺は、どうすればよかった?
コナンの言葉を頭のなかで何度も繰り返す。怒りの含んだ、だけど悲しげな声。ああ、ごめんなコナン。きらいにならないで。コナン。コナン。好きだよ。

頬を伝う涙は温い。頭のなかの彼の声は、だんだんと淡い思い出になっていく。「快斗、なあ、快斗」不器用な彼が、ぶっきらぼうに俺を呼ぶ声が懐かしい。

好きだ。好きだよ。ああ、こんなも好きなんだ。コナン。

溢れ出した気持ちは止まることを知らずに、流れる。下からベルモットの声が聞こえる。「ガキ」そんなこと、言われなくたってわかってるよ。


痣になれたら跡になれたら傷になれたら、ただ愛せたらいいのに




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