ラストダンス

「ア、スマ。このまま、死のう」
泣きそうな顔で俺の胸に手をつき懇願するシカマルに、なんとこたえればいいのか、わからない。見えない涙を、そっとすくいとる。泣くなよ、そう言えば、泣いてねえ、と睨まれた。
このまま、死ねればいいのに。シカマルの中に挿入されたアスマのものが爆ぜれば、そこでもうこの行為は終わりで。この関係も、終わりで。むなしいな。悲しいな。こんな感情、かわいそうなだけなのに、捨てるには、まだまだ勇気と時間が必要なのだから、厄介だよな。でも、大切に、腫れ物を触るように、抱えこむ。ふたりして馬鹿で、ふたりして、泣きそうになる。
「嘘だ」
嘘だよと呟くシカマルは、だけど胸がひどく痛くて、喉が締め付けられてうまく発音できない。ぐるぐる、感情がめぐる。ぐるぐる、言葉が浮かぶ。ぐるぐるぐるぐるぐるぐる。いつになればすべてうまくいくのか。いつになればすべて吐き出すことができるのか。そのこたえはきっと一生みつけられないと嫌な自信があるのだから、笑える。泣きそうだ。
嘘だよ。死のうなんて、嘘だよ。アスマは生きて。俺を殺して、アンタは生きていてよ。感情はめぐる。ぐるぐる、めぐる。好きだ愛してるなんて、そんな安易な言葉なんかじゃなくて、さあ。殺してよ。うんと、痛くして。骨は拾って、それから捨てて。アンタに一度でいいから、掬われたかったんだよ、多分、俺はね。
「幸せに、なれよ」
「…うん」
「振りかえるなよ」
「わかんねえよ」
「わかれよ、頼むから」
絞り出したようなシカマルの声を遮るように、喉にキスをする。お前の声が好きだったよ。言わないけど。悔しいから、好きなんか言わない。けど、ほんとは好きだった。悔しいくらいに、シカマルが好きだった。むなしいなあ、悲しいなあ。かわいそうだよなあ、俺たち。いつまでたっても。餓鬼だよなあ。
幸せにしたいのは、誰だっけ。この手で幸せにしたかったのは、お前だっけか。アイツだっけか。わかんねえんだわ、俺。お前と違って、頭弱えもん。アスマ。シカマルが呼ぶ。アスマ。声は震えていて、泣くなよ。声には出さなかった。泣くなよ、こっちまで泣きたくなるだろ。触れたいよ、抱き締めたいよ。閉じこめて、光なんて与えないで、シカマルが俺でいっぱいになれたなら、それは、なんて幸せで、滑稽なんだろう。シカマル。アスマの声も、笑えるくらい震えていて、幸せにしたかったのは、誰だっけ。誰かが囁く。違うよ。選択を間違えては、いけないよ。後戻りはできないんだからさ。そんなこと、知っているというのにね。ところで君は、誰だっけか。わかんねえよ、ばか。
「動いて、動いていいから」
「嫌だ」
「ねえ、って」
「動きたくない」
「いきたい」
「嫌だ」
「辛いんだ、もう」
「お願いだから」
終わりにしたくない。このまま、腐敗して、ふたりして、ぐちゃぐちゃに腐って、どろどろに溶けて、なにもかもわからないように、そうなれたらいいのに。

明日は必ずやってきて、いつも通りの毎日で。だけど、ねえ。いつも通りって、なんだっけ。明日って、なんだっけ。わかんないよ、わかりたくないよ。アスマ。ぐっと抱き締められて、あったかい。このままこの熱で溶けて、それからひとつになれたなら。
「死のうか、いま」
「冗談」
「うん」
「死ぬなよ」
「うん」
ねえきっと、多分明日は必ずやってくる。わからないけど、やってくるんだって。だからもういいや死なないよ。嘘だよ。冗談だよ。愛してよ。好きになってよ。アスマ。声にならないけれど、確かに叫んでる。ぐるぐるぐるぐるぐるぐる。アスマは笑ってる。ぐるぐるぐるぐるぐるぐる。
「あすま」
シカマルの声は、泣きたいくらい拙くて、ふたりして泣き笑いしてそれから。それから、ふたりしていって。それから、いつも通り。いつも通りのふたりに、戻る。

さようなら、はじめまして。おかえり、ただいま。

むしょうに、泣きたいような、笑いたいような、そんな気持ち。好きな気持ち。ぐるぐる。




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