10の差


 



『じゃあ今日はここまでね。』

『はい、ありがとうございます、吹雪先輩』


吹雪士郎、中学サッカーの日本代表としてイナズマジャパンに所属し世界一になったチームの一員であり北海道では誰もが耳にしたことのある有名選手。

今現在は母校である白恋中のコーチとして就任している。

元々この白恋中はサッカーで有名ではなかったものの吹雪先輩の活躍で活気溢れ今ではサッカーをしたいが為に白恋中に来る奴までいるんだとか。



『片付けは僕が済ませておくから、雪村は着替えてきなよ』

『え!いいです!俺が片付けますから!』

『ダーメ。これ以上遅くなると学校の門閉まっちゃうから雪村は早く着替えてくるの。分かった?』

吹雪先輩は一度も俺を強く叱った事はない。
こうやって優しい口調で注意するだけ。

吹雪先輩のペースに乗せられて先に折れるのはいつも俺の方だ。

『すみません…急いで着替えて来ます!』




吹雪先輩が白恋中のコーチになってから俺は部活が終わった後も吹雪先輩にサッカーを教わり、帰る時間が遅くなる事は既に日常と化していた。



『毎日こんな遅くなるまで部活にいたらご両親も心配するよね』

『大丈夫です。』

『どうして?』

とくに親も何も言わないし、むしろ帰宅しても親がいない場合もある。

なら、ギリギリまで吹雪先輩とサッカーの練習をしていたい。

そう思うのは俺の我が儘なのか。


『親も、まだ帰って来てないと思うんで。』

たまたまそんな話を吹雪先輩に話した。


『…そうなんだ。ぢゃあ雪村。』















季節は真冬


世間ではクリスマスシーズンに向け街の中央にはクリスマスツリーが飾られて光り輝いていた。



『わぁ、見てごらん雪村!今年も大きなツリーだねぇ』

『…そうですね。』


吹雪先輩は中学生の俺と10も離れているのにすごく子供っぽい行動や発言をする時がある。

『あれ、何かつまらなそうだねクリスマス嫌い?』

『好きとか嫌いとかありません。一般的行事にあまり興味がないだけです。』

『とか言いつつ、実は夜中まで起きてサンタさんを捕まえようとした事は!』

『ありません。』



はじめに見た吹雪先輩は格好良くて理想の人間像だったのに、今では何だか先輩の保護者になった気分。


先輩の真面目な姿はサッカーをしている時だけ。


あとはいい加減な気がする。


あれ…俺、先輩のどこに尊敬して憧れてるんだろう。



『あ、雪村。また眉間にシワが寄ってるよ』


誰のせいでこうなってると思うんですか。
いい加減分かってもらいたい。

『大丈夫です。これが通常なんで』

『もー、そんな事言ってるから女の子の一人や二人にも声かけてもらえないんだよ。せっかくのクリスマスなんだからさ。まだ若いんだし大事にしないと』

『女子よりサッカーなんで。』

『青春しようよー。』


吹雪先輩の言ってる事がたまに分からない時がある。

いや、何となく分かるけど…

敢えて話に乗らないようにしてるんだ。

吹雪先輩は地名度もあるが周りからの人間に好かれる傾向がある。

特に女の人に。

吹雪先輩と下校してる途中、女の人に声をかけたりする先輩の姿を見た事がある。

別に何とも思わないが、少し変な気分になった。

それが何なのか分からないけど、吹雪先輩と女の人が一緒に話しているのは見ていたくない。

だから吹雪先輩の口から女の話が出ると話したくもなくなるし、更に眉間にシワが寄る。


『ああああ…またそうやって…。』

吹雪先輩は眉を八の字にしながら笑う。


そんな顔を見ると申し訳ない気持ちでいっぱいになり頭を下げる。

『すみません…』

『あ、いいよ、そんな頭まで下げなくて』


こうすると吹雪先輩はいつも慌てながら俺の顔を上げさせる。

俺よりも大きくて冷たい手。
先輩よりも小さくて暖かい手。

『雪村の手はいつもあったかいね』

『子供体温だからって馬鹿にしてるんですか。大体吹雪先輩の体温は低すぎるんです。』

吹雪先輩の片手を暖めるだけなのに両手を使わないと暖める事すら出来ない手

早く大きくならないかな…

そう何度も思った。



どうして俺と先輩には10年もの差があるのだろう。

俺が10年早く生まれてたらとか先輩が同い年だったらとか叶わない現実ばかり考える。



『あはは、また怒られちゃったね。』

『…寒さも厳しくなってきたんで…身体には気をつけて欲しいんです。』

『心配してくれてるの?』

『……。』


素直に"はい"と答えられない。
また良く分からない感情だ。

『雪村は優しいね』

何も答えない俺の頭に"ありがとう"と言いながら手を乗せてくる先輩の手はやっぱり大きくて…



『それじゃ僕はこっちだから気をつけて帰るんだよ。あとさっきの話ちゃんと考えといてね。また明日練習頑張ろう。』



そう言って俺は吹雪先輩と別れた。

























"今日はいきなりだからあれだけど、今度お家の人が遅くなる日があったら一緒に夕飯食べようか"










これっていつでも良いのかな。