※アツヤ生存
※白恋side





放課後デート


 
















『うおー!やっと終わったぁ!これで帰れる!』


『わぁ。良かったねー。』


二学期のはじめ

学校が午前中で終わるという、学生なら誰もが喜ぶであろうという日にアツヤはやり残した夏休みの課題をやらされていた。


本来ならば長年の付き合いで親友である烈斗とゲーセン→カラオケというプランで今日という一日を終わらせる予定であったが、残念ながらそれはに担任の先生に阻止されたのだ。



『なんだよ兄貴、俺がこんな大量の課題を終わらせたっていうのに不機嫌そうだな。もっと一緒に喜びを分かち合おうぜ!』



正面には肘を付きながら喜んでる弟とは反対に不機嫌そうな兄の姿があった。


『……お一人でどうぞ。』







士郎がご機嫌ナナメなのは以下の理由である。




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『よっしゃー!今日はこれで学校も終わった!部活もない!そんな訳だ、烈斗ちょっと面貸せや』


『おま…端から見たらただの脅しだぞ。』


セカンドバックを肩にかけ烈斗を逃がすものかと首を腕で固定しいかにも誘拐現場であろう光景。

しかしそれはもう誰もが見慣れた風景である。



『細かい事は気にするな。んな事より今日こそお前にホッケー勝負をリベンジすることをここに宣言する!』

『どこに何度目の宣言だよ。いい加減諦め『アツヤくん、アツヤくん』


烈斗がアツヤの腕を退かしながら呆れていると下の方からアツヤのズボンをぐいぐいと引くと同時に声がした。


『お。どうした紺子!今日もちっせぇな!』


『ふふ、アツヤくんは今日もおっきいね。あのね、さっき先生に頼まれたんだけどアツヤくんに職員室に寄ってくれって。』

『なんだ、あの野郎とうとう俺の魅力に気付いたのか。』

『そうかもねっ』

『相変わらず清々しいくらいの自信家だな。』

『まぁな!』

『……取り敢えず呼ばれてるなら早く先生のとこ寄って来いよ。待っててやるから。』

『お!烈斗!お前もやっと俺の事が解ってきたな!』

『そりゃあ、約束もしてない約束を破ってもいないのに破ったと思われて、大群の熊を引き連れて家まで押しかけられれば誰もがこういう選択を選ぶだろう。』


『うんうん、持つべき者は親友だな!じゃ、ちゃちゃっと褒められて来るわ』

『聞いちゃいねぇ。』


そう言ってアツヤは気分良く職員室へ向かった。





しかし数分後

先程までのポジティブ思考はどこへいってしまったのか。
アツヤのテンションはガクンと下がって帰って来た。




『……お前…まさかとは思うが。…いや、先に言っておこう。俺は何も手伝わないからな。』


『烈斗ォオォッ!!!!!』


アツヤの手には提出したばかりの夏休みの課題が大量にあった。

今日出した課題が当日に帰って来るなど有り得ない。



その表紙を見れば一目瞭然。



アツヤは課題を全て白紙のまま出したのだ。





『お前は神か?』

『いやん、やめろ照れるだろ。褒めんな』

『きめぇ。そしてやめる。しかも褒めてない。』


烈斗はまさか中学にもなってこのやり口は有り得ないだろうと思ったが、アツヤなら通常運転かと嫌々ながら納得してしまった。


『取り敢えずそういう事だ烈斗。残念だがホッケー勝負はまた明日にして今日は俺の宿題をやらせてやろう。』


『話を無限ループさせる気か。何段落か戻れ。俺の答えは既に出てる。』

『俺は数学やるからお前は古典な。』

『………。』



仕方なく烈斗は他の生徒が校門を出て帰宅するのを遠い目で見送りそのままアツヤに付き合うことになった。




『しかし見た目に似合わずお前理系は得意なんだよな。』

『失礼な。俺は知的エースストライカーを目指してるから理科だって出来る』

『理科も引っくるめて理系っつてんだよバカストライカー。』


烈斗とアツヤは机を隣合わせにしコツコツと課題を終わらせていった。




昼を過ぎると流石に腹が空いたのか二人して集中力が途切れてきた。


『大変だ烈斗。数式の文字がミドリムシに見えてきた。』

『黙れキチガイ。俺だって古文を現代文に訳すだけなのに、何故かそのまま古文を書き写してたっていうオチはミドリムシ以上のショックのでかさだ』

『ミジンコ能だな』

『お前がな』





互いに汚し合う中廊下から救いの手であろう声が聞こえた。




『アツヤー!烈斗くーん!』


二人が声の方を振り向くとアツヤの双子兄、士郎が手を振っていた。









『…という訳だ。』

『それで珍しく烈斗くんがアツヤの隣で勉強してたんだ。』

『どう考えてもおかしい状況だろ』

『うん。もう、アツヤったらどうして烈斗くんに迷惑かけるのさ。課題は自分でやらなきゃいけないんだよ!』

『わかった、もうちょいで終わるから、その話はまた後にしてくれ。』


アツヤは士郎から貰ったお菓子を口にしながら士郎の説教はごめんだとばかりに再び数学を解いていた。


『もう…あ、後は僕がアツヤに付き合うから烈斗くんは帰っても大丈夫だよ?』


『士郎!』『兄貴何言ってッ…!』

『当たり前でしょ、烈斗くんは自分の課題終わらせて残る必要ないんだから。』


『…士郎、やっぱりお前はこの暴力ストライカーと違って本物のブリンスだな。』

『なんだと烈斗コノヤロウ!』
『アツヤ!』


こうして烈斗は士郎の助けにより午後には学校から帰宅することが出来た。

『あーあー烈斗が帰っちまって寂しいーよー』

『何か不満でも?』

『まさかー。あ、でも兄貴が俺の課題に付き合ってくれるって信じて…『付き合わないよ?』』


『……え……?…』


アツヤはぽかんと士郎の顔を見つめた。

『だって今日は僕、紺子ちゃんと約束があるからアツヤに付き合ってる暇なんてこれっぽっちもないもの。』

『ちょ、ぢゃあ何で烈斗を…!』

『烈斗くんは烈斗くんの時間があるの!アツヤは課題でしょ!』


そんな、烈斗がいればもうすぐ課題は終わらせることが出来たというのに、頼りにしてた親友を失い兄にまで裏切られアツヤは机に疼くまった。


『僕に仮病は通じないよアツヤ。』
『チッ』


残ってる課題を見ながらアツヤは兄に助けを求めるように話した。


『なーマジでこんな誰もいない教室で俺一人になんの?』

『もちろん』

『誰かに襲われたらどうすんだよ』

『ヤマオヤジくんくらいしかそんな勝負しかけてこないよ』

『大雪になって校舎が潰れたら!』

『僕はまだ死にたくないから』

『…………』

『…………』


『兄貴ィ…っ』




どんな理由を述べてもスルーされてしまうアツヤはもう泣くしかなかった。



『……まったく、仕方ないなぁ。』

『え、まさか…!』

『紺子ちゃんとの待ち合わせの時間までだからね。』

『うおお!にーちゃん大好き!愛してるー!』



助けを求める弟には弱く渋々士郎はアツヤの課題を手伝いはじめた。











『おわりー!』
『おお!』

士郎が手伝った課題は烈斗が途中まで終わらせといた為、すんなりと終わってしまった。

『流石兄貴!ぢゃあ、次はこれな。』

ドンと出されたのは白紙の原稿用紙。


『これは…?』

『夏休みの思い出作文。』


課題だけならまだしもアツヤは夏休みの作文やポスターすらも終わらせてなかった。


『ダメ!これはさすがに自分でやりなよ!』

『頼む!烈斗には俺の夏休みの思い出なんか、どうせ寝て食ってサッカーしてとしかないんだろって言われたんだ!兄貴なら俺のちゃんとした思い出分かるだろ!』

『烈斗くんの言ったまんまぢゃない!』


などと作文について口論してる最中、士郎の携帯が光った。


『あ。紺子ちゃんからのメールだ。』


『今日は別の用事が入ってたのーなんつって。』

『まさか。紺子ちゃんに限って………え、そんな。うそ。』



携帯を確認するとそこには紺子から"急用が出来て今日は出かけられそうにない"と謝罪のメールが送られてきていた。



『どんまい兄貴。』

『アツヤのせいだ。』

『え。』


『アツヤがちゃんと課題やらないからー!』

『おおお、課題と紺子が比例するってそんなバナナはおやつに入りますかー!』

『アツヤのバカー!!!』


士郎はヤケになりアツヤの作文を何十枚も書いた。











日も傾きはじめた頃、士郎のヤケパワーにより烈斗と思っていた時間より早く課題が終わった。






ブツブツと愚痴る兄を隣に課題を職員室へ再提出しに行きアツヤは士郎と学校を後にした。








『なぁ、まだ怒ってんの?』

『アツヤがきちんと課題やってればこんな事には。』




あれから士郎はアツヤに理不尽な理由しか吐かなくなった。


『……………その、あれだったら、俺と行こうぜ。』

『え。』

『だから、紺子と行く約束してた場所。』


士郎はその言葉に表情を明るくさせてアツヤを見つめる。


『いいの?一緒に来てくれるの?』


『ああ、課題だって兄貴のお陰で早く終わったしな。』

『アツヤ!ありがとう!』





それからというもの士郎はアツヤの手を引きながらある場所へと向かった。


街中に連れて行かれ一体どこへ向かってるのだろうと聞いてみる。

すると士郎は満面の笑みで

『ケーキバイキング!』

と答えるのだった。



『……………。』












アツヤは死ぬ覚悟でケーキバイキングへ臨んだ。























翌日、アツヤは再び担任に呼び出され作文を書き直せと言われた。


兄貴に限って作文の書き直しなんて珍しいなどとはじめてその用紙に目を通す。



読んでいくとそれは恐ろしい文章であり



そこには士郎の愚痴しか書かれていなかった。