女の子どうしの恋は、甘いお菓子に似ている。茜はふとした瞬間にそう思う。細くて白い指を絡ませて手を繋ぐとき。相手の口に舌を差し込んで、とろけるような口付けをするとき。茜の頭にはスイーツが浮かぶ。可愛い見た目にふわふわのクリーム。口いっぱいに広がる甘さはまさに恋そのものだ。それは女の子どうしだからこそ味わえる至高のスイーツである。男の子には分からないその味は、一口食べるだけで虜になってしまう。真っ白で繊細な、何よりも壊れやすい小さなお菓子。茜は、甘いお菓子も葵との恋も大好きである。


「茜さん、食べないんですか?」


葵の声にはっと意識が戻った。茜の手には、美味しそうなクレープが握られている。味は茜が好きなストロベリー生クリームだ。ずっしり重いのはたっぷりのクリームのせいである。葵の手にもまた、同じ味のクレープが握られていた。茜の好きな味でお揃いにしてくれたのだ。葵は最近、何かと茜と一緒のことをしたりお揃いにこだわったりする。一度なぜか聞いてみようと茜は思っている。でも、そんな葵が愛らしいからそのままでいようか、とも思う。葵はただ、好きな人と色々な感情を共有したいという思いでそうしているのだが、こんな簡単なことにも気付かないほどに茜は葵に惚れていた。
今日は二人でショッピングモールに来ていた。服屋を覗いて互いに服をあてがったり、雑貨屋で同じヘアアクセサリーを買ったり。きっと人が見れば仲のよい女の子のショッピングだが、二人にとってはデートだ。照れくさくて手を繋いだりはできなくても、茜と葵は幸せを感じていた。
今はその買い物が終わり、葵の提案でクレープを食べることになった。茜さんと同じ味にします、そう言ってはにかんだ葵に見とれていたらあっという間にクレープは出来上がった。店員さんのスマイルには何もときめかないのに、葵にだけは弱い。茜はそんな自分がなんだかおかしかった。


「ちょっと考えごとしてたの。もちろん食べるよ」
「何考えてたんですか?」
「んーと、恋はお菓子だな、って」


そう言うと葵は不思議そうな顔をした。茜はクレープを一口ぱくりと食べる。生地もクリームも何もかもが甘くて、思わず顔が綻んだ。顔を上げて葵においしいよ、と促すと葵もクレープを口に入れる。じっとその様子を見つめる茜は、何とも言えない幸福感の中にいた。クレープを飲み込んだ葵は満開の花のような笑顔を見せ、「本当ですね!」と目を輝かせた。その口元には少し生クリームがついている。


「葵ちゃん、クリームついてるよ」
「え? どこにですか?」
「ここ」


茜は葵の口もとのクリームを人差し指で拭った。そして、そのまま口に含む。なんだか自分のクリームよりも甘い気がして、−−ああ、甘いのは当然だ、と思う。葵は茜の行動に驚き、しばらく何も言えずに茜の優しい笑顔を見ていた。甘いね、と言って再び自分のクレープを食べ始める茜。葵はどぎまぎしながら、同じようにクレープをまた一口食べた。クレープを持つ葵の手は震えて、動揺しているのが一目で分かる。茜はそんな葵の姿が可愛らしく思える。しばらくして、おいしいですね、と呟いた葵に茜はうんと頷いた。どこまでも甘くて、どこまでも繊細で美しい。やっぱり女の子どうしの恋はお菓子に似ている。茜はそう思いながら、クレープを食べる葵の赤い耳を嬉しそうに見ていた。




砂糖塗して食べちゃいたい


title by 歯車

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