葵の年上の恋人、茜は細かなことによく気が付く質であった。例えば葵のスカートの丈がいつもより少し短いだとか、ほんの少し切った前髪だとか、茜には全て分かった。そして、「前髪切ったんだね」などと誰より早く言うものだから、葵はその目ざとさに毎回驚かされる。葵は、普段から人を撮っている茜だから観察眼が鋭いのだろうと思っていた。茜はどんな時でもシャッターチャンスをうかがっていて、その写真にかける情熱は葵ですら計り知れないほどだ。
しかし、そんな茜でも、葵といる時は違った。まるで小さい子になったかのように葵にスキンシップを求め、隙を見つけてはキスをする。初めはそんな見たことのない茜の姿に、素直に驚いていた葵だったが、次第にそれですら可愛いと思うようになった。ただ、少しの恥ずかしさは未だに残っている。


「葵ちゃん、こっち向いて」


茜に抱きしめられ、言われた通り顔を向けると唇にキスをされた。茜の唇が離れたのを感じてまぶたを開くと、そこは童話の世界のような空気が漂っていて、そうだここは茜先輩の部屋だと葵は思った。茜の部屋はぬいぐるみや女の子らしい雑貨に溢れていて、同じ女子でも葵の部屋とは少し違う。最近はアンティーク風の雑貨を集めているらしく、茜に似合っているなと葵はふと感じた。


「なに考えてるの、葵ちゃん」
「茜さんのお部屋可愛いな、って…」
「ふふ。ありがとう」


頬に一つキス。茜の唇はいつだって柔らかくて熱を帯びている。葵はその唇の温度が好きだ。触れられると心地よくて、葵は何度もキスを求めてしまう。
茜は葵の前髪を横にどけて、おでこに吸いつくようにキスをした。


「葵ちゃんのおでこって綺麗だね。睫毛も長いし、いいなあ」


そう言うと茜はより強く葵を抱きしめた。なぜそんな細かいところばかり、と葵は少し可笑しくて笑った。茜が不思議そうな表情をしたから葵は言う。先輩、私嬉しいです。茜さんが私のことをちゃんと見てくれているから。すると茜はびっくりして、でもまたすぐに笑顔に戻った。そして葵のほっぺたを優しい手つきで撫で、嬉しそうに目を細める。


「当たり前。だって葵ちゃんが好きだもの、いつも葵ちゃんだけを見てる」
「本当、ですか…?」
「うん。本当だよ」


だからね、葵ちゃんも私だけ見てて。照れることもなく茜が言うものだから、葵は気恥ずかしくなった。そんな葵の隙をついてまた唇を重ねられる。茜の舌が入ってきて、葵もたどたどしく舌を絡め返す。長くて濃厚なキスが終わったあとに茜は呟いた。葵ちゃんとのキスは甘いね。葵ははい、と答えて、寄りかかるように抱きしめてくる茜の背中に手をまわした。




女の子は甘い何かで出来てるの


title by 歯車

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