茜はずっと片思いをしていた。その恋は叶わなくていい、胸の奥で密かに思いを育んでいようと決めていたはずだった。今、茜はそんな過去の自分を怒りたい気持ちでいっぱいだ。嘘つき、と。何が叶わなくていい、だ。きっと神様が、そんな茜の曖昧な思いに腹を立てたのだ。このまま友達のような、そうでないような関係でいたい、なんて欲張りだった。ずるずる引きずってきたその甘さが、今となっては茜を傷付けることになっている。 茜の片思いの相手、神童に好きな人ができた。それは戦国時代の少女だった。あれから神童は、物思いにふけったり難しそうな表情をすることが多くなった。茜には分かる。本人は自覚していないのかもしれないが、明らかにあれは恋だ。 茜は神童の写真を撮ることをもはや趣味のようにしていたが、最近は暗い顔ばかりしていてとても撮る気にはなれない。今日もまた、神童は空を見て泣きそうになっている。茜にはどこまでも続く雲しか見えないが、きっと神童はあの少女の顔を思い描いているのだろう。茜は苦しくなって、構えていたカメラをベンチの上に置いた。そして、立ち上がりおそるおそる神童に声をかける。 「シン様、」 「…山菜。大丈夫、何でもない。それより今日は写真は撮らないのか?」 「…撮ります、」 茜は何も問いかけていないのに、神童は無理に笑顔を作って「何でもない」と言う。その神童の作り笑いを、茜は痛々しいとは思わなかった。それよりも、あの少女のことが羨ましかった。神童はまた、練習に戻っていく。ボールを追いかけるその姿は、茜が好きになった日の神童と何も変わらない。それなのに、神童がどこか遠くに行ってしまったかのように届かない。 茜は再びカメラを構えて神童の姿を捉える。あの少女はもう二度と神童に会えることはないが、茜は声を出せば振り向いてくれる位近くにいる。それでも、神童は茜に恋をしてはくれない。 茜はシャッターボタンを押した。パシャリ、音がするのと同時に心が疼いた。 どうか僕のいない世界で、素敵な恋をして title by 歯車 |