茜にはずっと人に言えないことがあった。それは同性が好きということである。物心ついたときから茜の心を奪うのは決まって女の子であった。しかし周りの友達は揃って教室の男の子についてばかり話をしていた。私は誰々くんが好き、何々くんってかっこいいよね。それで茜は自分がみなとは違うと気付いた。茜は学年一の人気者の男の子より、その男の子を取り囲んでいる女の子たちの方がよっぽど魅力的に見えた。茜が初めて恋をしたのも女の子であった。それは同じクラスの学級委員の子で、面倒見がよくおおらかな性格の子だった。茜は密かにその子に恋心を抱いて、少し話せただけでも舞い上がる程に幸せになったり、彼女に微笑みかけられた時には気を失ってしまうのではないかという程に幸せになった。だがある日彼女は「実は、好きな人がいるの」と茜に告げた。少しずつ距離を縮めていき、行動を共にする程度に仲良くなっていたある日のことだった。彼女は恥ずかしそうにある男の子の名前を告げた。その瞬間、茜の恋は儚く砕けた。それから茜は静かに自分に言い聞かせるようになった。自分の恋は叶うことはない。私は人と違うのだ。もう二度と、勘違いして舞い上がることなどしない、と。


茜は中学生になった。そして茜にはまた好きな人ができた。瀬戸水鳥という、明るい髪を持つ少女だ。水鳥とは同じサッカー部で出会った。水鳥は性格やなにもかもが茜とは正反対で、それがかえって茜の心を惹きつけた。水鳥の笑顔に胸をときめかせる度に、茜は自分を戒めた。この思いを抱いているのは自分だけだ。水鳥は茜のことを仲の良い友人の一人としか思っていない。そう強く思うからこそ、茜は今日も水鳥と何気ない話で笑いあうことができるのだ。




「茜、ボールペン貸してくれるか?」

「いいけど、水鳥ちゃんまた筆箱忘れたの?」

「ああ、うっかりしててさ…」




茜が三色ボールペンを渡すと、水鳥は「サンキュ」と笑った。そして自分の席に帰っていく。茜はその背中をじっと見つめたまま、少し微笑んだ。それだけでも心臓の動きが速くなる。それほどまでに水鳥が好きで、話すたびに茜の中に嬉しさと苦みがこみ上げてくる。しかし水鳥は茜のこの想いを知ることなどないだろう。でもそれでいい。水鳥の側にいられるのだから。茜はそう思って、ペンケースのチャックを閉めた。茜にはずっとこの片思いを貫き通す自信がある。だって茜は何度でもさっきの水鳥の笑顔を思い出すことができるのだ。ただそれだけのことに幸せを感じて、茜は今日も水鳥に報われない片思いをする。




たんぽぽの片想い


title by 少年レイニー

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