茜が目を開くと、一面が真っ白だった。それがシーツの白だと理解するまでの一瞬、茜はどこか他の世界に置き去りにされたような感覚に陥る。そして、ああここは自分の部屋のベッドの上ではないかと思う。首を反対側にぐるりと向けると、裸の葵がすやすやと寝息をたてていた。茜もまた、葵と同じように裸だ。ベッドの側の床には、二人分の衣服が散らばっている。葵の長い睫毛をじっと見つめながら、茜は昨晩のことを思い出した。互いに求め合って絡めた舌の感触。恥ずかしそうな葵の声。何もかもが鮮明に蘇って、茜は少し頬を赤らめた。
 そのまま何もしないで葵の寝顔を見ていようかと思った瞬間、葵がゆっくりと瞼を開いた。まるで視線に気づいたようで、茜は面白くて笑った。葵はぼんやりしていたが、昨晩の出来事や今の状況を理解したのか、笑う茜を見て少し赤くなった。


「茜さん、寝顔見てました?」
「うん、見てたよ」
「うわぁ、恥ずかしい…!み、見なくてもいいじゃないですか」
「でも、かわいかったもん」


 そう茜が言うと、葵はうっと言葉をつまらせた。そして照れた顔を隠すように布団を顔まで引っ張る。茜はそんな反応が可愛くて、葵ちゃん、と呼んでみた。すると葵はなんですか、と布団から顔を出した。案外簡単に見せてくれた葵の顔はまだ赤くて、茜は葵を抱きしめたくなる。茜はすっと顔を近づける。葵の白い綺麗な肌が、朝の光を浴びて輝く。手を伸ばして頬を撫でれば、葵の温かさがじんわり伝わってきた。茜はそのまま、葵にキスをする。柔らかい唇どうしをくっつけるだけの軽いキスだが、茜はふと幸せを感じた。目を開いて葵を見ると、葵はとろんとした目をしていて、きっと葵も幸せなのだろうなと茜は思った。
 そして茜は布団の中で葵を抱きしめる。葵が茜の背中に手をまわした時、ふと茜はこのまま一つになりたいと感じた。目が覚めて隣に葵がいるときの、なんとも言えない感情を思い出す。嬉しさが心の奥底から湧き出て、全身に広がっていくようなあの感じ。茜は、あれこそが幸せというものなのだと思った。叶うなら、ずっとこうして葵の隣にいたい−−。茜の心に、そんな甘くて切ない気持ちがこみ上げる。茜は、恥ずかしそうな葵の顔を見ながら思った。一生葵の側にいよう。そしてどちらかが死ぬときは、一緒に二人で旅立とう。茜はそう考えて、葵のまぶたに唇を近づける。それを受け入れようとぎゅっと目を瞑る葵。ちゅ、と小さな音がして、まるで誓いのキスだと茜は思った。抱きしめあう柔らかな二人の身体は、今確かに一つになろうとしている。




あなたと生きて逝きたい


title by るるる

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