気付かないうちに夏は過ぎ去り、いつの間にか秋が訪れていた。歩くだけで汗がじわりとにじんだ季節が終わって、衣替えをして、あっという間に肌寒くなった。狩屋は冷えた指先を温めるように息をほうっと吹きかけた。一瞬指先に温かな吐息が当たって、また指先は冷たくなる。狩屋はそんな意味のない行動を何度も繰り返しながらゆっくり歩く。狩屋の隣には茜。狩屋は、茜の歩幅に合わせるためにわざと少しゆっくりめに歩いているのだ。 最近付き合うことになった二人は、一緒に登下校している。二人の会話はあまり弾むことなく、途切れ途切れだ。狩屋は緊張して上手く話すことが出来ず、茜はもともとよく喋る方ではないからだ。今日は寒いですね。うん。さっきそんな言葉を交わしてから、二人の間に会話はない。狩屋は「茜さんは退屈していないだろうか」と不安げに茜の表情をちらちら伺う。しかし茜は、狩屋と共に帰ることに幸せを感じていた。だから途切れ途切れの会話でも、茜は十分楽しい。 だが狩屋はそんな茜の思いなど知るはずもなく、ぎこちない空気に不安を抱いていた。何か、話すことはないだろうか…。狩屋は必死に頭をフル回転させる。するとふいに茜が口を開いた。 「狩屋くん、寒いね」 「そうですね」 「あのね、だから、」 そう言って茜は自分の右手を差し出す。急なその行動の意味が分からない狩屋は、え?と言いたげな顔をした。 「手、つなごう」 狩屋が返事をする前に、茜は狩屋の左手をとる。触れた茜の手のひらはやはり冷たく、でもつながないよりは温かかった。こういうのは、俺がリードすべきではないのか。狩屋はそう思い、少し顔が火照った。茜はきゅっと狩屋の手を握る。狩屋が茜の方を見ると、茜もまた狩屋の方を向いて嬉しそうにしていた。その表情が可愛かったものだから、狩屋どきっとして目をそらす。目をそらした先にあった空はすっかり夜の色をしていた。隣から、幸せそうな茜の笑い声が聞こえて狩屋は頬を赤くした。 わたしはきみとしあわせになりたい title by るるる |