隣を歩く光は、昨日までの光となんら変わりはない。背丈だって急に伸びるわけないし、声だって急に低くなるわけないから、昨日と変わったところを、俺は見つけられなかった。
なのに、どうしてかいつもみたいに隠れて手を繋いだり、キスをしたり、普段していることができない。だるそうにぶらついている光の手に、ただ自分の手を重ねればいいだけなのに。キスしたい、って言えばきっと光は少し笑いながらしてくれるのに。なんで、やろ。
横目で光を盗み見る。ちょっとだけ猫背で、いつも歩くときは目を伏せて下ばっかり見ている光が、今日もまた、そこにいた。気づかれないように小さく息を吐く。
すこし、こわい、のかもしれない。ひとつ年を重ねた光が、俺のことをどうおもってるのか、わからなくて。身長や声が変わらなくたって、気持ちは簡単に変わるもんだ。人の感情なんて誰も予測できやしない。


やって、どんどん大人になる俺たちが、ずっとこのまま一緒にいれる保証なんて、なにひとつないやろ?



「、、謙也さんさあ」
「えっ、あ、おん、なに?」
「なんで今日そんなに大人しいん」
いつもはうっさいくらいやのに。、相変わらず道路を見つめながら歩いている光が言う。声が不機嫌そうなのは、きっと俺のせい。ごめんな、今日はお前にとって大切な日なんに、俺はまだおめでとうも言えてない。今言わなかったらもう直接言えないのに。もう少しで、俺は左に、光は右に。夕日も沈みかけてる。夏の暑い空気が体にまとわりつくのが気持ちがわるくて、喉がからからに渇く。なにも答えられなかった。おめでとう、くらい、言えよ、自分。そう思うのに、なかなか思うように体が動いてくれなくて。


「なんか、おれ、した?」
小さい声でそう言われて、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。ちがう、そうやない。やけどそれさえも俺は発せなくて、悔しさで涙が溢れた。もう、意味わからん。

「泣かんといてよ」
ごめん、ごめんな。ただ勝手に不安になって、挙げ句の果てに泣き出して。光はきっと困ってる。
おねがい、おねがいやからきらいにならんといて。
光の制服の裾を右手でぎゅうっと握る。


「、、謙也さんが、なんでそんなに不安になってるかはわからんけど。俺はいくつになったってあんたのことが好きなことに変わりはあらへんよ」

俺の右手にいつもよりあったかい光の左手が重なる。

「せやから謙也さんも俺の隣におって、いくつになっても」
おねがい、、、切なそうに光がそう言って、触れるだけのキス。なあ、おれ、光の隣におってもええの?

どんどん大人になる俺たちが、ずっとこのまま一緒にいれる保証なんて、確かになにひとつないし、絶対な約束なんて存在しないって知ってるけど、今くらい信じさせてな神様とやら。

今日は一緒に右に曲がって、そんで今度はちゃんと抱きしめてもらってたくさんキスもして、少し遅くなったけどちゃんとおめでとうって言おう。それから、さっきのお願いとやらを、聞いてあげてもええかな、なんて。





100720
光お誕生日おめでとう

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