短編 | ナノ


どうして男の子ってみんなバカなんだろう。好きになった女の子はいつだって自分の中で美化されて可愛いままで在り続けるのに、いざ目の前に絶世の美女が現れるとそのフィルターは容易く取り外され、すぐに目の色を変えて今まで隣を歩いていた恋人を平気で捨てる。美女の性格はこの上なく最悪だと耳打ちしても、男の子ったらみんな必ず美女に寝返って、恋人との別れをいとも簡単に切り出す。見た目だけでひとを判断するだなんて、本当にバカじゃないの


「僕も男の子なんだけど」

「男の子代表として、聞いてほしいの」


わたしの言葉を始終聞いていたリーマスは、盛大な溜め息をついて前髪を梳いた。それからゆっくりと考える動作をしてみて、急に真剣な顔になる。なんだ、一応考えてくれるんだ。そこで少し気をよくしたわたしは、更に続けた。どうして男の子ってこんなにバカなのか、って。自分を好きな女の子がいれば、それだけで十分じゃないか。わたしは、わたしを好いてくれる男の子がひとりいれば、それだけで十分である。大多数に愛されたいだなんてそんなことは絶対に思わない。博愛主義者こそひとりにのみ愛の言葉を囁くべきだからだ。みんなに同じ重みの深い愛を送れば、それこそ博愛主義者を愛した者同士の凄惨な争いが待っているに決まっている。だって、さ、女の子はみんな優しくされると勘違いしてしまうもの。だから男の子は、好きな子にしか優しくしちゃいけないし、盲目的に愛し合わなくちゃいけない。そうでしょう? そこまで口にして初めて、視界がぼやけていることに気が付いた


「なに泣いてるのさ」

「うるさい」

「…僕は君も大概だと思うな」


また溜め息を吐き出して、リーマスはわたしの目尻に溢れた液体を拭い上げた。溢れ出るそれは留まることを知らない。次から次へと溢れてはリーマスのローブの袖を冷たく濡らす。ああ、もう、何が大概だ。わたしの何が大概だというのだ。男の子がみんな悪い。女の子の気持ちも知らずに簡単に別れを切り出せる男の子が悪い。自己中心的で傍若無人で八方美人な男の子が悪い。いつだって、男の子が、悪い、わるいのだ


「友達が振られちゃったんでしょ、恋人に」

「………」

「好きなひとが出来たからって」

「………」

「君が泣くことじゃない」


頭を優しく撫でてくれるリーマスの手つきにわたしは何故だか苛立たしさを感じていた。彼にも、勿論愛すべき彼女がいる。そんな彼女がいるにも関わらず、どうして電波女を優しく取り扱うのだ。いっそのこと殴り付けてカスと呼んでくれた方がまだ助かる。あなた、今までわたしの話をずっと真剣に聞いていたじゃない、理解していたじゃない。なのにどうして


「僕から言わせれば女の子もバカだよ」「一途にしかものを見れないから、」「男の気持ちに気付きもしない」


見上げたリーマスは酷く痛々しい笑顔をこちらに向けていた。どうしてそんな顔をするのか、わたしには全く分からなかった。そっとわたしを抱き締めたリーマスは、震えた声でわたしに残酷な言葉を言い放つ。それはわたしが、この世で最も聞きたくない台詞だった


「すきだよ、なまえ」


つらい愛をしよう
へそ/111022