わかっているよ、きみの不安は 部屋の窓がカタカタと小刻みに煩い音をたてる。その音がまさにわたしの作業の邪魔をしているように思えて、些か羽ペンを握る手に力が籠もった。外は嵐らしい。先程から窓際に生い茂る木々が強風に曝されて痛い痛いと喚きながらわたしに助けてとSOSサインを示す。ばかやろうわたしだってたかが木の一本や二本のために暖かい部屋から凍てつく外気に身を投じて風を止めるために出来るはずもない魔法を使うほど暇ではないんだ、他をあたれ。しかしそんな小言を胸中で呟いたところでひとりだけの部屋で誰かに届くはずもなく、勿論窓の向こう側の木々に聞こえるはずもないので虚しさがそっと広がるのみ。なんで、よりによって、こんな、嵐の夜に限って。この部屋には誰もいないの。疑問ではなく只の心の叫びである。気にしないでほしい。そうこうしている間に、わたしが助けに行かないことに苛立ちを覚えてきたのだろう木々たちは更に強い力で窓ガラスを叩く。わたしはその音に絶句した。この世のものとは思えない、まるで死者からの招き声のように不吉な不協和音が奏でられる。指先が震える。ついにわたしは、ペンを握ることが不可能になってしまった。仕方ない、もう寝よう。このまま起きていてもいいことはひとつもあるまい。のそのそとベッドに移動して、シーツをおもむろに捲った。そして心の中で盛大に悲鳴を上げた。なぜ、よりによって、こんな日に、シーツの中に、お前が いる ! 「…何をしているの、リーマス」 「‥ああ、眠くて寝てしまっていたみたいだ」 「…ここ女子寮よね」 「そのようだね」 「…死にたいの?」 「まさか」 にっこりと人の良さそうな笑顔を産み出す麗人にため息混じりに杖を取り出した。そうだな、失神呪文でもお見舞いしてやろうか。もう一度気を失わせて、そして窓から突き落としてやろう。そうすれば木々たちの標的もこの男に切り替わるというわけだ。わたしの安眠は約束される。杖を振ろうと腕を上げたところを、強い力で捕らえられた。そのまま強引にベッドの中へ引き寄せられる。なんとも簡単に、驚くほど呆気なく。抱き留められてしまった。少し暴れてみたが疲れるのですぐにやめた。もう今日は精神的にかなりヘトヘトだもの 「あれ、暴れないの」 「疲れているの」 「そうか」 「…」 「一緒に寝よう」 「…え?」 そのままぎゅっと抱き締められた。鼻先にリーマスの鎖骨が当たる。甘い香りがふわりと鼻腔を擽った。不本意ながら…酷く安心してしまった。抵抗する気がしない。ゆっくりと目蓋を閉じるとリーマスの忍び笑いが頭の上から聞こえた 「…なに」 「いや、抵抗ないなあと思って」 「今日だけ、だから」 「素直じゃないなあ」 嵐がこわいだなんて そんな恥ずかしいこと 言えるはずないじゃない title by 透徹 120403 |