半袖も寒くなって涼しげで過ごしやすい
心地よい風に流れてきた立ち込めるほのかな香りに周りを見回すと、金木犀が散り散りと咲いててあぁこんな季節かと夕暮れの中ひとりで思う

今日はバイトも無いし夕飯も一緒に食べれる、いたって平和な日だ

何を作ってやろうか、

金木犀の優しく淡い匂いにいつもより機嫌がよくなるのが自分でもよくわかった

この綺麗な橙色に甘く落ち着く匂い
雨に濡れるとあっという間に散ってしまう儚さ
かと思えば寒くなっても暫くは茂るたくましい青

どこか好きだな、と今更ながらこの植物に謎の感情を抱きながら帰路をゆくと、見慣れたアパートの階段の奥の扉が目に入り、あぁそうかと思った


さながら王子はこの花のようだ

自分でも驚くくらい甘い考えである
王子はここまでおれに食い込んでいたのか?

こんなの思っても口になんて恥ずかしくって言えやしねぇよ とひとりで笑った










「おかえりなさい!!」

まず最初に扉を開けて刺激されたのは、こいつの声を振動させる鼓膜ではなく奥にある先程までおれに酷いキャラ崩壊を起こさせた正体からの嗅覚への刺激だった


「あ あぁ、ただいま…」

所でつよしくんよ…

王子つよしくんはいつもの屈託ない笑顔をおれに振りまいていた

とりあえずドアを閉めて一歩踏み出す

「これは、一体……………」「えっ、あぁ、これでございますか?いいにおいでしょう?」

王子はキンモクセイというのでございますよ〜〜〜〜と自信げである

いや知ってるし…とは言えず、ただただおれは頭を抱えたい気分である

人の布団の上に散りばめやがって…………どうしてくれんだ。

どうやら散歩中お気に召してしまい、持ってきてしまったんだろう

これだから常識の無い王子様は困る(そこが可愛いといっちゃあ、まぁ可愛い)

「秋の柔らかい風にアクセントのようなこの落ち着く優しい香り、素朴な花のかたち…、まるで」

よしくんの様でございますよ。
ふふ、と王子は笑う

ほら言わんこっちゃない

よくそんな甘ったるいセリフが吐けたもんだ

おれだっていってやりてぇ、それはおれじゃなくてお前だってな。


あんまり嗅ぎすぎるとうざくなってくるところとかな!!



*20111029
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