「こーんなに晴れてて、からっとしてるのになんでこんなに人がいないんだろう」
窓の外の一定の早さで流れる風景を眺めながらタローは呟いた
「それは今日はなんも変哲も無い只の平日だからだろ、しかも真っ昼間だからだろ」
「そっかぁ、みんなお仕事にべんきょー大変なんだねぇ」
「本来はおれ達もなんだが」
「そうだったね、はは」
気分を変えて今日は電車で行こうか、と訳の分からない提案を嫌々ながらもタローを説得する時間が無くて承諾してしまった事をナカジは我ながら馬鹿だったと思った
「いやー、あんなに通勤ラッシュがしんどいとは思わなかったよ、学校なんて行く気失せちゃったよね」
途中でタローは学校行くのめんどくさくなった、とかぬかしてナカジの腕を引っ張り、反対側の電車に乗り換えてしまい、今に至る
「お前みたいにおれは遊ぶ為だけに学校行ってる訳じゃないんだ」
「別に乗り換えた時点なら間に合ったし、おれ置いて行けば良かったじゃん」
「そういう訳にもいかないだろう」
お前みたいな馬鹿、一人に出来るか
とナカジはため息を吐いた
「ナカジは優しいなあ、」
「別に」
「そういう冷たいとこもカワイイよね」
コイツとは会話が成立しない呪いでもかかっているのか、と思うほどの話の噛みあわなさに呆れて先程タローが眺めていた窓の外に目をやった
空は雲一つ無い快晴で初夏の太陽が光っていた
空の下は特に目立った街並みは見えず、緑とたまに民家が見えるくらいだった
随分田舎の方まで来たようだった
車両はタローとナカジ以外はまるで無人で
最早この電車には何人乗っているのか、と思うくらいだった
「おんなじ電車なのに、こっちは快適だなあ、静かだし人も居ないしゆっくり出来る」
「ああ」
ナカジが曖昧な返事を返すとつまらなくなったのか喋るのをやめ、タローは窓の外に視線を戻した
そんなに乗っている気はしないがもう随分遠くまで来たようだった
全く見たことの無い、今日タローの気まぐれが無ければ一生見ることも無かったような土地だ
ナカジは早くも帰りの帰路の事を考えると憂鬱になった
外はただただ透き通り無人で、世界に切り離されたような感覚だった
特に停まる事もない電車が進むに連れ丘の下から青が拡がってる
「あっ」
タローは思わず、声をもらした
「海だ、ナカジ」
「ああ」
海を見つめるタローの顔はきらきらしていた
「降りよう、ナカジ。降りよう!」
「はいはい」
タイミング良く停まった電車から飛び出すかの様にタローは下車した
「やったあ!海だ、海!!」
「いっつも行ってるだろ」
ナカジはあきれながらしばらく乗っていた電車を見送った
「(ほんとにここは何処だ)」
周りを見渡しても人はやっぱり居なかった
只そこには古びた線路と自然があるだけだった
正直帰れる自信が無い
駅名も聞いたことも無い実際来た道もあやふやである
しかしそんな不安 タローが知る由も無いだろう、と横目でタローを見た
降り注ぐ太陽の陽とタローの色素の薄い髪が反射してまるで本物の太陽のごとく光っていた
光の中心にあるタローの横顔は無駄に楽しそうだった
その顔を見た瞬間
どうでもよくなった
帰れようが帰れまいが、関係ない
こいつがいるならいい
「(我ながら馬鹿だな)」
脳内までタローに侵されてる気分だった
「まぁ、いいか」
「よくないよ。」
「は、」
「おれ、サーフボード持ってきてねえじゃん!!!」
「お前ほんとに馬鹿だな」
*20110524