「ねえナカジきてきて!サクラだよ、サクラ!」
まだ午前の明るい陽がさすなかをいつものように二人で歩いていた
こいつもいつものようにおれの前をふらふら歩く
「こっからでも見える」
「そっか、あはは」
見上げるとまだ満開では無いが桜の花が咲いていた
この双方に桜の樹が植えられた桜並木は満開になれば確かに綺麗なものだった
「おれ、サクラ見るの初めて!」
「そうだったか?」
「そうだよ!」
去年の今頃は まだこいつは海の向こうの向こうに居たのか
一年足らずでこんなになつかれるとは、会ったときは予想だにしていなかったな、とため息を吐く
そんなおれを余所にタローは続けて口を開く
「満開になる頃には新学期だねえ」
いつの間にかさっきまでふらふら3メートル先を歩いていたタローが隣に居た
(こいつが急に隣にいたり離れたり突拍子もない事をするのはいつもの事なのでもう慣れている自分が嫌だ)
「お前ほんとに進級出来るのかよ」
「えっ!?ナカジ酷いなぁ、出来るよ!!」
あ、でもナカジが先輩っていうのも良いね、とかアホな事をタローは呟く
と、思うとタローは
あ、と
間抜けな声をもらした
「ナカジ、」
すっ とおれより少し大きな掌が、決して華奢とは言えない腕が伸びておれの頭にそえる
「花びら、ついてる」
不意に近付いて来た顔と意識せずとも視線が交わる。
至近距離で見つめるタローの顔は、いつもへらへらしてるタローが見せない真面目な顔でおれは思わず、反射神経のようなものだった、
このままだと、真っ直ぐな眼に吸い込まれそうで、距離をとろうと身体を動かそうとすると腕をがっちり掴まれて、頭にあったタローの腕が顔に降りてきて、そのまま手を顔に添えられる形でタローの顔が更に近付く
抵抗の声をもらそうと、口を開いたら容赦なく舌が入って来そうだから、そのまま眼を瞑った
誰も居ないにしろ、ここは外なんだ、いい加減にしてほしい、(決して室内なら幾らでもしていいといいという訳ではない)等と、脳内で巡らせていると、タローの唇が離れた
「ナカジ、」
ぎゅっ、と身体を抱き寄せられ名前を呼ばれる
「、何だよ」
「ん…、いや、何でもない。ナカジ、次も、同じクラスになれるといいね。」
一瞬、いつもと違うタローに動揺したが顔をあげたタローはいつものタローだった。
「絶対に嫌だ」
*20110401