まずい、時計をみて思わずつぶやいてしまった
半ば静けさが出始めたイルミネーションや街のざわめきを横目に、全力疾走で走り抜けると風が頬に刺さる
アパートの階段をかけあがり、無防備にも鍵が開けっ放しになってるドアを開けると、見慣れた金髪がいた
「王子!」
「あ、よしくん、お帰りなさい」
いつもなら気になって仕方ない靴もぐちゃぐちゃのまま部屋に入ると王子はいつもと変わらず笑顔で出迎えてくれた
「ごめんな…遅くなって」
「いいんですよ、忙しかったのでしょう?」
お仕事、お疲れさまと笑った顔がいつもより寂しげで思わず抱き締める
「よしくん…」
「王子ごめん…こんな時間じゃ何処も出掛けられないし、バイト先のケーキしか買ってこれなくて…せっかく王子…待っててくれたのに」
言ってたら余計に悲しくなってきた
ずっと前から王子は楽しみにしてくれてて、おれのバイトも夕方までだから、夜出掛けられたらいいなとか、言ってたのに、結局断りきれないおれは最後まで営業しちゃって、こんな時間まで王子を一人で待たせる事になってしまって情けなくて、何よりも先に食事をするわけでもなく何かするわけでもなく王子は
ただおれの帰りを待っていてくれたという事実が嬉しくて、半面切なくて涙が出る
「よしくん、よしくんが泣くことなんて1つも無いでございますよ」
ふわりと王子の両手がおれの頬を覆うと、王子の温かな体温が身にしみる
「こんな、身体を冷やしてまで、夜まで働いて疲れているのに、僕の為に急いで帰ってきてくれた事だけで、僕はしあわせでございます」
「王子…」
ごめん、とまた謝りかけると人差し指で唇を抑えられて、自然とお互いの距離がゆっくり近付きそのまま王子の唇が重なった
「あ、よしくん、だけどちょっとお腹は空きました」
と苦笑いの王子も可愛いなと思ってしまう
「今作るよ、わりぃな、おれの手作りで」
「どんな高級レストランの料理より僕はよしくんの作ったごはんのが食べたいでございますよ」
「なっ…!バカ言うなよ」
「ほんとでございますよ!」
「そうか…………あ、ありがと」
「よしくん可愛い」
「うるせぇ!」
あと30分
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