ホームルームが終わって颯爽と帰ろうとするナカジをなんとかひっつかまえておれがバス停までくっちゃべって、ナカジはああ、とか、そう とかなんとか相槌かえしててそんでそうする間にお目当てのバスが来て、二人で乗って(偶然にも運命にもおれとナカジはおんなじ方向だからおんなじバスで学校に通ってる)あー涼しいとかあー暖かいとか、毎日毎日それの繰り返し。
「けっこうすいてるね〜まあいっつもの事かぁ、こっちの方向のひとあんま居ないよねえ」
「お前が喋りながらゆっくり歩いてるから、一本逃してるのもあるけどな」
ナカジはしかめっ面でかばんの中に定期をしまいながらつぶやく
「まあ混んでるよりいーじゃん、ほら座ろ、」
今日は午前授業だったからナカジもいつものギターはお家においてきたから、奥の二人席に座る
いっつもはおれの隣席にギターケースを自分の代わりに置いて、ナカジは手前で立っているのが基本。
「やっぱり隣にナカジがいるの嬉しいね、明日から夏休みだからお出かけの時はいっつもこうやって隣に座れるんだあ、嬉しいなあ!」
「いつお前とおれが一緒にバス乗って出掛ける約束した」
「えっナカジひどい!約束したじゃん!」
せいぜいお前の補習に付き合うときだけだ、
とナカジは呆れ顔で左隣の窓ガラスのふちのとこに膝をたてる。
数日前ナカジは暑さに耐えきれなくなったのかやっとあのあつぼったい学ランを脱いで、Yシャツのみになった
半袖から伸びる白い肌がきれいで 意識せずとも見つめてしまう
がたんがだんとたまに不規則な揺れにも動じずナカジはずっと窓の外をみてる
そうこうしてる間に次の停留所がナカジの降りるバス停に切り替わった
流石に降りるバス停まではちがくて、おれはナカジの次の次のバス停だった
だけどおれは少しでもナカジと一緒に居たいから、ナカジの降りるバス停で一緒に降りて、家まで送って、歩いて帰ってる。
これが、おれとナカジの基本の帰宅パターンだった
「あっ、ナカジ 次だよ?」
「いい」
「へ、」
「降りなくて、いい」
おれはナカジが言っている意味がわからなくて
いつも以上に間抜けな声をもらしてしまった
そうこうしてる間にナカジの本来降りなければいけないバス停を見送ることになった
「今日はおれがお前ん所で降りるから、いい」
「えっ…ナカジそれって」
「…どうせ一緒に居るなら、涼しい方が良いだろ。」
ナカジはバスを降りるまで、それっきり喋らなかったけど白く伸びた指先に自分の手を重ねるとゆっくり絡ませてきて ナカジの低温が指に伝わってきた
たったそれだけの事なのに、こんなにもおれは幸せで、安上がりだなあとか、この静かなバスのなか、ひっそりと思ってる。
「(こないだまでは、手を繋ぐどころか、目も合わせてくれなかった)」
がたんかたんと不規則なリズムな揺れとか、変わらぬ確かな温度とか、バスの時間とか停車駅とかきっといつまでも変わらないだろうけど、こうやって最初は名前と姿しか知らなかったナカジとおれの関係は変わっていくのかな
「ナカジ、すきだよ」
独り言の様に呟くと、ナカジは先ほどと変わらず窓の外を見ながら、小さく頷いた
恋人同士。
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