王子が風邪を引いた
いつもいつもおれを好き勝手振り回す奴は今日はとっても大人しかった
「なんとかは、風邪を引かないんじゃなかったかな」
「失礼ですねよしくんは…」
流石の今日はいつもの王子の服はハンガーにかかっていて、おれのスウェットを着ていた
「似合わないな、それ」
「だから言ったじゃないですか、厚ぼったくて嫌ですし…」
布団から上半身起こして項垂れる王子は本来なら不格好の筈なのだが、何故だか気品がある
「頭がぐらぐらします…」
「だから寝てろって、おれ今日は学校休むから」
な、と起こした上半身を倒すようにすると
すみません、と弱々しく笑う
なんだかいつもより素直で調子が狂うが素直な事は何よりだ
「でも少し嬉しいですね、今日は一日中よしくんと一緒に居れるんですね」
「ばか」
「照れてるんですか、かわいいですね」
ふふ、と笑う王子はいつも通りだったから、少し軽く額を叩いてやった
「もういい加減寝ろよ、お昼になったらまた起こしてやるから」
「とか言って学校に行ったりとかしませんか?」「え?行かないって…そりゃコンビニで飲みもんとか冷えぴた買ってきたりとかはするかもしんないけど、基本的に今日はずっと家にいるよ」
「そういうの要らないから、傍に居てください」
「ばか、早く治りたいだろ?んな風邪グッズ家に無いんだから…「いいですから」
ああ、やっぱりこんな時でも王子は王子だった
基本優しくて温厚で笑顔を絶やすことは無いのだが、一度言ったから訊かない、頑固で我が侭
こうなったら誰にも(少なくともおれには)王子を止められない
それに、もしかしたら王子は風邪のせいで心細いのかもしれない
朦朧とした世界に居るような心地にする風邪と言うものは確かに一人では寂しいものだ
仕方ねえなあ、と王子の手を握る
王子は驚いたのか、目をいつもよりおおきく開いて此方をみた
「…わかったよ、何処にも行かない。…これで、悪化しても知らないからな!」
「よしくんってほんとに僕に甘いですね、そんなところも可愛くて大好きです」
「…わかったから、さっさと寝ろ」
はいはい、と言って
王子は静かに目を瞑ると、ぎゅ、と手を握ってきた
おれは黙ってそれを返した
こないだお前がおれにしてくれた様に。
あなたのてのひら
ありがち風邪ネタ*0706