やきもち


『お中元にもらったジュース、冷やしておくから適当に飲んでいいわよ』
 今朝、出掛けに言われた母親の言葉を思い出し、純平は帰宅してすぐ台所に直行し、冷蔵庫を開けた。
 中には母親が言ったとおり、二百ミリリットルの小さな缶が何本も並んでいた。
 りんご、ぶどう、オレンジ……いくつか種類があるようで、確かめながら何を飲もうか迷っていると、勇翔が純平の後ろから同じように冷蔵庫を覗き込んで声を上げた。
「あー、ジュース! おれも飲みたい!」
「うん、ちょっと待ってな」
 ピーチ、パイナップル、グレープフルーツ。暑いし、グレープフルーツにしようかな。全部の種類を確かめて、その中からまず純平が一本を選び出す。そして、勇翔を振り返った。
「勇翔は、なにがいい?」
「おにいちゃんとおなじの!」
「え? グレープフルーツ? 飲めないだろう? オレンジにしたら?」
 柑橘類特有の酸味と、少しの苦味があるグレープフルーツは、幼い勇翔には少しハードルが高い。そう思って純平はオレンジを勧めたのだが、勇翔は不機嫌に口を尖らせた。
「もう、おれ、やきもちやいてる!」
「……え?」
「だから! やきもちやいてるってば!!」
「勇翔、それたぶん、使い方間違ってるよ……」
 おそらく勇翔は、覚えたばかりの言葉を意味もよくわからないまま口にしたのだろう。この年頃の子供にはありがちなことだ。純平は脱力しながら、勇翔にオレンジの缶を渡す。すると勇翔が、
「おにいちゃんもオレンジ飲むの! おれといっしょ!」
そう、訴えてきた。
 なるほど。そういうことか。
 「やきもち」の使い方は間違っていたが、言いたいことはわかった。
「わかったよ」
 純平は苦笑しながら、手の中のグレープフルーツをオレンジと入れ替えた。

END


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