相愛ケミストリー 2


 んな、冷静に説明すんなよ!
 心のうちでツッコミながら、俺は思った。

 ――じゃあ俺相原に惚れちゃうわけ!?





 相原とは今年初めて同じクラスになったけれども、噂でその存在だけは知っていた。
 廃部にならないのが不思議なくらいに部員数の少ない化学部の部員で、三年になった今では部長を務めている。
 実験オタクで、放課後はたいてい化学室にこもって何かをやっている。
 噂では宇宙人と交信できるとか、そのうち人体実験をおこなうつもりだとかなんとか。
 とにかく、たいていの人は相原を変わり者だと言う。
 そんな相原とは名簿が一番二番と前後だったこともあり何度か会話を重ねて、まあ、無表情だしつかみどころのないヤツではあるけれど噂ほどには変人じゃないっていうのがわかり、俺は相原とは普通の友達として付き合ってきた。
 それが崩れ始めたのは、二週間ほど前のこと。
 今日と同じように化学室に呼ばれ、ビニール袋に入れた白い錠剤を木槌で細かく砕きながら相原は言った。「お前が好きだ」――と。
 まっすぐな瞳で俺を捉えたまま、相原が同じ言葉を繰り返す。
「お前が好きだ」
「……俺?」
「そうだ」
「……好きって、その……そういう意味で?」
「そういう意味、というのはよくわからないが、もう少し深く掘り下げて言うと抱きしめてキ」
「わーーーっ!! いいっ!! 掘り下げなくていいからっ!!」
 聞こえかけた危ない単語を慌てて遮り、ぜいぜいと息を荒げる俺とは対照的に、相原の態度は至って冷静なまま。
 そして、どう返事をしたものかと視線を彷徨わせる俺に、相原はビニール袋を見つめて言ったのだ。
「とりあえず、今日は帰ってくれないか?」
「――は?」
「明日また放課後ここに来てくれ」
「あ……、ああ……、わかった……」
 混乱した頭で返事をして化学室を出る。
 自分から呼び出しておいて「帰ってくれ」とか、ずいぶん一方的だよな、とか。
 明日また来てくれってことは、そのときに返事をしなきゃいけないのか、とか。
 そもそも男の俺を好きってどういうことなんだよ、とか。
 いろんなことを冷静に考えられたのは、家に帰って夕飯を食って風呂に入ったあと、自室のベッドの上で、だった。





 翌日、かなり緊張しながら化学室を訪れたものの、予想に反して相原は返事を求めてこなかった。
 そして差し出されたのはクッキー。
「カルシウム入りだ」
「――は?」
「味見をしてくれ」
 見た目は普通。おそるおそる口に入れると、さくっとした歯ざわりと広がるバターの香り。そんなに甘すぎず食べやすいから、二枚目に手を伸ばしながら感想を伝える。


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