友愛プライマリー 2


「……今日は、バレンタインデーだからな……」
「え?」
 もう一度、手の中の小包と相原の顔とを交互に眺める。
 バレンタイン、ってことは、このマカロンはもしかして……。
 そう考えながら相原の顔色を伺う。相変わらずこっちを見てはくれないけれど、逸らされた横顔がうっすらと赤く染まっているのは、俺の気のせいじゃないはず。
 ヤバい。
 いつもの手作りお菓子が今日だけプレゼント仕様の理由を考えているうちに、なんだかドキドキしてきた。
「開けていい?」
 一応そう尋ねて相原が小さく頷いたのを確認してから、包装紙を解いていく。
 四角い箱の中に入っていたのは、チョコレートで上面をコーティングされた、ハート型のマカロンだった。
 実物を見た途端、一気に心臓が跳ね上がる。もう一度相原の表情を伺うと、相原は逸らしていた視線をゆっくりと俺に合わせ、再び同じ言葉を紡いだ。
「バレンタインデー、だからな」
 マジかよ。
 つまりこれは、相原にとっての本命チョコ、ってことだよな?
 そりゃ相原は俺を好きだと言うし、俺も相原のことは好きだけど、男が男にマジチョコとか普通考えないだろ?
 頭の片隅ではそんな風に反抗的に思う一方で、俺の心は半端ない罪悪感でいっぱいになっていた。
 義理だったり、お礼だったり、失敗作だったり……。
 ひとつとして本命はなかったけれど、それでも、好きでもない女の子からもらったたくさんのチョコレート。同じ教室にいたのだから、おそらくその場面を相原に見られていただろう。俺、どんな顔してチョコ受け取ってた? どんな言葉を女の子たちに掛けていた?
 ひとつひとつのやり取りを思い出しながら、手の中の箱に視線を落とす。綺麗に並んだマカロンに、じんわりと胸が暖かくなる。こんなに嬉しく感じるのは、やっぱこれが本命チョコ、ってヤツだからなんだよな……。
「あり、がと……」
 お礼を言うだけなのに、声が震える。
 それと、ごめん。
 そんなつもりじゃなかったんだけど、いくらなんでも無神経すぎたよな、俺。
「食べてみてくれ」
 うなだれる俺に返されたのは、いつもと同じあまり抑揚のない相原の声。変わらない態度とその言葉に押されるように、ハートをひとつつまみ上げ、口に入れる。


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