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以下お礼小説。お題に沿って進みます。

1.暗黙

(もしかして……)
 ふとよぎった予感に、晴人は自宅の最寄駅よりもかなり手前で電車を降りた。まばらな人波を掻き分け、邪魔にならない位置まで移動し、ホームを見渡す。やはり、というか、見知った背中を見つけて声を上げた。
「英志!」
 振り返った顔が、晴人に気づいて足を止める。
 驚きに目を瞠る英志に近づきながら、晴人は自分が自然と笑顔になっていくのがわかった。
 英志が不思議そうに口を開く。
「晴人も、同じ電車に乗っていたのか。でも、どうして……?」
 それもそのはず、英志が一人で暮らすアパートは大学の近くにあり、普段この駅は利用しない。同じ大学に実家から通う晴人の降りる駅は、何駅も先のはずだ。
 英志の疑問に、晴人は曖昧な微笑を浮かべる。
「うん、なんとなく、ね」
「……そうか」
 短く呟いて、英志が腕時計に目を落とす。その仕草を見て、晴人はすぐさま心配そうに問いかけた。
「ごめん、時間」
「いや、大丈夫」
 晴人が気にしないようにだろう。顔を上げて笑顔を見せてから、英志があたりを見回す。空いていたベンチに座るよう促されたので、晴人は英志と並んで腰掛けた。
「今日も……バイト?」
「ああ。でも、集合時間までまだ十五分くらいあるから、少しなら」
 ここ数日時間が会わず、晴人は英志とまともに会話を交わしていなかった。少しでいいから話をしたい。そう思ったものの、英志の都合がわからず言葉にできなかった。そんな晴人の思いに気づいて、英志が先回りをしてくれた。そのことが嬉しくて、晴人の胸は、日向にいるときのようにほっこりと温かくなる。
「ありがと。今日は、どんなバイト?」
 英志は、登録型人材派遣でアルバイトしている。数週間から数ヶ月単位で継続して行なう仕事もしているが、突発的に空いた時間があれば、単発で、一日だけの仕事を入れるときもある。今日は後者だ。そして、その集合場所がこの駅だった。
「倉庫内作業、としか聞いてないんだ。けど、前にも何度か行ったことのある会社だから、作業内容は大体想像つくけど」
「どんなことするの?」
「たぶん、だけど、棚卸し応援。俺たち派遣は、ひたすら数を数えるんだ」
 想像すると苦笑いが浮かぶ。でも、晴人はそうした様々な話を、英志の口から聞くのが好きだった。
 ひとしきり話した後で、英志が改めて晴人の顔を見て言う。
「でも、すごい偶然だよな」
 一日に何十本と走っている電車の中でたまたま同じ電車に乗り、お互いに普段は利用しない駅なのに、二人ともそこで降りて出会う。
(偶然、か……)
 英志は偶然という言葉を使ったが、晴人はなにか、もっと別のものを感じていた。
 こんなことは、一度や二度ではない。なんとなく、相手のことがわかる。二人の間に、引き寄せられる何かがある。何度も重なれば、それはもう、偶然じゃない。
 そう、運命だと思った。

To be continued...





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