「おいイハラ生きてるか」
「……はい」

机の上に突っ伏したまま返事をする私に「そうか」とどうでもよさげな返事をした警部補はボロ椅子をキイキイ鳴らしながら「疲れたな」と呟いた。

あと15分で夜勤が終わるという時に同時多発的に発生したなんたら教による布教(という名のテロ)に駆り出されHL中を駆けずり回ること約半日。そこから諸々の事後処理に追われ気づけば二人して二回目の朝を迎えていた。ここだけ聞いたら色っぽい風だがどちらもニ徹明け相応の酷いありさまで目も当てられない。

「……帰るぞ」
「はい……」

よろよろと立ち上がり警部補の後に続いて署を出れば太陽の眩しさに目を細めた。いくら霧に覆われているとはいえこの日差しは徹夜の身には染みる。

「おい、飯食いに行くぞ」
「やですよ……私は一刻も早く帰って寝たいんです」
「なら持ち帰りにするからついてこい。お前の分も奢ってやるから」
「ええ〜」

徹夜明けとは思えない足取りで風を切って歩く彼の後ろをのろのろと付いていく。

「何にする?」
「サブウェイ」
「それ以外」
「……じゃあタコス」
「悪くねえな」

野菜も摂れてボリュームがあるから腹も膨れるしすぐ出てきてさっさと食べられるのでこんな時にはぴったりだ。何よりよく行く店はここからすぐの所にあるので移動距離が少なくて済む。

ランチタイムは行列が出来る店も、開店直後は流石に人もまばらでありがたい。行儀悪く両手をポッケに突っ込んだままの警部補はデカデカと掲げられたメニュー表をちらりとも見ずに店員の元へと行った。

「持ち帰りで。俺はブリドーのブラウンライス豆なしカルニタスでレッドチリとチーズトッピング」
「私はボウルでホワイトライス、ブラックビーンズ、バルバコア。トッピングにピーコデガーヨとチーズたっぷりとレタス、あとグワック!トルティーヤ2枚付けてください」
「ガッツリ食う気満々じゃねえか」
「お腹が減ってないとは言ってません……あ、袋は別々で」
「いや一緒でいい」

何を勝手なことをと隣を見れば、彼は相変わらずの覇気のない顔で財布を取り出し粗雑な手付きで札を店員に手渡した。

「うちで食ってけ」

ちゃくちゃくと袋に詰められるご飯たちを無言で見つめながら、決定事項ですかとため息をつく。大きさの割にずっしりとした袋をどうもと受け取り一足先に出ていた彼のもとへ行けば、いつの間にやら薄い唇に煙草が咥えられていた。

「食べたらすぐ帰りますからね」
「あ?なんでだよ」
「なんでって……」

そんなもの理由はひとつしかないが流石に公然と口に出す勇気はなく、とにかくシャワーも浴びてないし眠いし疲れてる今日は無理ですと言葉を濁せば彼はピタリと歩みを止め、威圧感たっぷりな仕草でトントンと煙草の灰を落とした。

「なるほど確かにお前の言うことは尤もだ。俺たちは汚えし眠いし何より疲れてる」

うんうんと頷きながらそう言う警部補になんだ案外理解がいいじゃないかと安心していると、彼は「だから、だ」と言葉を区切り、ゆっくりと私の方へと向き直した。その顔に貼り付けられたにこやかな笑みに背筋がぞっとする。じりじりとにじり寄ってくる彼から逃れようとすればすかさず手首(それも袋を下げている方)をガッチリ掴まれ、それどころか逆に引き寄せられてしまった。あの、警部補、としどろもどろになりながら顔色を伺う私に彼はニイっと口角を吊り上げこう言った。

「帰ったら飯食って風呂入って泥のように寝て、それからセックスだ」

これなら文句はねえだろ、とご丁寧に人の顔に煙まで吹き付けてから背中を向けた男に、「文句しかねえわ!馬鹿!」と叫べば「おーおーそうか。なら後で、ベッドの上でたっぷり聞いてやるよ」なんて軽口が返ってきてじわじわと耳が熱くなる。

「あと二人っきりなんだからいつもみたいにダニーって呼べよカナエ」

見なくてもどんな顔をしているのかわかるくらいの意地悪なトーンでそう言われ、悔し紛れに渾身の力を込めて靴を踏みつけた。後ろから痛てえだのクソだの聞こえてくるけど知ったこっちゃない。ざまあみろ!
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