「参ったなあ……」

カーテン越しの街灯に照らされた時計を見れば、時刻は既に2時を回っていた。対局の前とは違う意味での緊張にすっかり目が冴えて、右を向いても左を向いても一向に眠気は訪れない。デートが楽しみすぎて眠れないなんていい歳したおっさんが何をとため息をつけば、携帯電話が短い着信音を鳴らした。

画面に写った名前はまさしく、さっきから俺の頭を離れないその人で、急な体調不良でもあったのだろうかと不安になりながらメールを開く。そうして出てきた短い文面に、目を丸くした。

『今日のデートが楽しみすぎてちっともねむれません
ひどい顔をしてたらごめんなさい』

ははは、なんだそりゃ!とつぶやいて、携帯を放り投げる。ひとしきり笑って安堵したところでもう一度携帯を取り上げて、いくつかのボタンを押したあと耳に押し当てた。そうして数秒待てば、慌てた声が俺の名前を軽やかに呼ぶ。

『もしもし、島田さんごめんなさい、起こしちゃいましたか!?』
「いいや……俺も眠れなかったとこ」

そう言えばほっと息をついたのが、画面越しにもわかった。今彼女はどんな顔をしているんだろうか。いっそ、今から会いに行ってしまいたい。

『島田さんって、遠足の前の日眠れなくなるタイプでした?』
「いいや?普通に寝てたなあ」
『私も。次の日が待ち遠しくて寝れないなんて、はじめて……』

噛みしめるように呟かれたその言葉がじんわりと胸にしみる。数秒遅れで俺もだよ、と言おうとしたけれど、代わりに出たのは体の底から眠気を絞り出したような大きなあくびだった。

「なんか、声聞いてたら眠くなってきたな……」
『ふふ……わたしもです』
「お互い寝坊しないように頑張ろう」
『そうですね、頑張りましょう』

ふふふ……と笑い合って、おやすみの挨拶をして電源ボタンに指をかける。

「……なあ、」
『?どうしたんですか』
「…………いや、やっぱ会ってから話すよ」
『ええー?気になるなあ……』
「また明日な」
『もうとっくに今日ですよ』

ああそうだった、じゃあまた後でと今度こそ通話を切って目を閉じる。

今日会ったら、今度どこか泊りで旅行に行かないかって誘ってみよう。近場でも、遠くでも、どこだっていい。彼女がどんな顔で眠りにつくのかを、一番近くで見てみたいんだ。
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