順位戦の最終戦が終わり、辛くも残留が決まって胃の痛みから解放されたある日の正午過ぎ。かなえの作った具だくさんすぎて麺の見えない焼きそばを食べながら、かなえがつけたお昼のバラエティ番組を一緒に見る。

今やってるのは季節のパフェ特集。俺の中のパフェのイメージは、コーンフレークでこれでもかとかさ増しされ、赤とか緑とかの毒々しいシロップが大量にかけられたやつだが、テレビに映っているパフェはどれも宝石のように輝いていて、男の俺から見ても美味そうだなと思う。

かなえはというと、当然のごとく目を輝かせてテレビにかぶりつき、さっきから箸でつまんだ麺を口に運ぼうとしては「ああ……」とか「はあぁぁ……」とか言って皿に落とすというのを延々に繰り返している。ちょっと、いや、かなり間抜けだ。

「あ!」
「え?」
「ここ!ずっと行ってみたかったんです!」
「……ああ、ここはなんか、聞いたことある気がする。」
「ここのパフェ有名で……すっごく美味しそうなんですよ……」
「友達と食いに行かねえの?」
「一度は食べてみたいねって言ってるんですけど……」

そこでかなえは言葉を切って、静かに画面を見つめた。一体何があるのかと、俺もかなえの見つめる先を見る。数秒経って画面はパフェのアップから、店の情報へと切り替わる。と同時に表示されたパフェの値段を見て納得した。

「高いんです……」
「ああうん……確かにこれはちょっと……勇気がいるな……」
「あとなんか土地柄、ちょっと行きにくいっていうか……」
「ああ……なんとなく、わかるよ。」

安い定食屋なら軽く4回くらいはメシが食えてしまいそうな値段のパフェというのは社会人でもまあまあ勇気がいるだろう。学生なら尚の事。おまけに場所は銀座。かなえが行きたくても行けないと言うのは理解できる。

「……食いに行くか?」
「……!」
「普段世話になってるお礼に、ご馳走しますよお嬢さん。」

俺の言葉にかなえはパアっと顔を明るくして、「行きます!!行きます!」と叫んだ。喜びを体全体で表現しながら「やったー!」とはしゃぐ様は微笑ましくて可愛らしい。

「じゃあ今すぐ行きましょう!」
「え、今から?」
「だってテレビで流れちゃったら絶対に混みますもん!」
「そりゃまあそうだけど……」
「あ、でも銀座にお出かけするならお洒落しないと!」
「別にそんな気合入れなくても……」
「島田さんもお洒落してきてくださいね!私家で支度してくるので、13時に駅の改札前集合で!」

そう言ってすごい勢いで焼きそばをかっ込んで皿を洗い家を出ていったかなえ。残された俺は半ば呆気にとられながら、お洒落って言われてもなあ……と首をひねった。

「こんなんでよかったんだろうか……」

ファッションというものに疎い自分なりに、一応それなりのよそ行きの格好をしてみたものの、果たしてこれで合っているのかわからない。まあとりあえずジャケットを羽織っていれば大丈夫だろうと約束の時間に間に合うように家を出る。

そういえばこうやってかなえと出掛けたことなんて今までなかった気がする。時々外食することはあっても近所だったり、学校帰りにどこかで待ち合わせてだったりで、こうやって改めてというのは新鮮だ。というかこれはデートというやつじゃないのかなんて思いだしたら段々こっ恥ずかしくなってきて、気付けば待ち合わせよりだいぶと早く駅に着いてしまった。かなえはまだ来ていない。

大体いつもかなえが先にいるので、かなえを待つというのも慣れなくて落ち着かない。髪が変なことになってないかとか、コートに埃がついてないかとか、色んなことが気になってしまって無駄にそわそわする。普段は気にならない靴の汚れも今日は妙に気になって、じっとつま先を眺めていると、視界に薄ピンクの靴が見えた。

「ごめんなさい、待ちましたか。」
「いや、そんなこと、は……」

顔を上げて思わず固まった。なんていうか、いつもと違う。唇はつやつやしてて、目元もなんかキラキラしてる。髪の毛はふわっとまとめ上げられてて、シンプルなワンピースがよく似合ってる。

「そんなジロジロ見られたら恥ずかしいんですけど……」
「す、すまん。」
「早く行きましょ!」

少しはにかんだようにそう言ってかなえは改札をすり抜けていく。その後ろ姿にすら見とれてしまって、数秒遅れて慌てて後を追った。

「あぁ……どうしよう……決められない……パフェもいいけどケーキも捨てがたい……」
「パフェ食いに来たんじゃなかったのか。」
「だってほら!このプレートもすごく美味しそうなんですよ!!ほら!」
「わかったわかった……じゃあ俺がそっち頼むから。」

そうしてやってきたイチゴ山盛りのパフェと、ケーキやらプリンやらの乗った皿をしばらくうっとりと眺め、いただきますとスプーンを取ったかなえ。その口にパフェが運ばれた瞬間、「んー……!」と声にならない声が上がった。

「おいしい……」

とろんととろけるような笑みを浮かべ、かなえは「しあわせ……」と呟いて、今度はケーキに手を伸ばす。言葉の通り、全身から幸せオーラを撒き散らして身悶えしている姿を見ると、自然とこっちも笑顔になってくる。

「……可愛いな。」

それは思わず漏れた本音だった。

ワンテンポ遅れて、ハッとして口を押さえるが時既に遅し。かなえは大きな目を更に大きくして、串刺しにしていたオレンジをべちょっと机の上に落とし固まった。

「あ、いや、その……別に変な意味じゃなくてだな……」

じゃあどんな意味だ。そのまま堂々としていればいいのに、墓穴を掘った気がして思わず顔を反らす。どうしたもんかと考えて、とりあえず話を変えてこの妙な空気をなんとかしようとコーヒーカップを片手にかなえを見れば、知らぬ間に林檎のような真っ赤な顔になっていた。

「……島田さんも……今日は一段と格好良いですね……」

その言葉に、今度はこっちの顔に火が点いた。一段と、なんてお世辞に決まってるんだから動揺するなと自分に言いきかせるけれど、無理だ耳が熱い。

「…………アイス、溶けるぞ。」
「……島田さんがちっとも食べないから。」
「全部かなえが食べたらいい。」
「島田さんも食べなきゃだめです。」

俺はいいよと言う前に、はい、と唇に触れるか触れないかの距離にスプーンを差し出され、口を開ける。

舌先に触れる冷たさと、身の内の熱さで頭がどうにかなってしまいそうだった。
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