名探偵 | ナノ
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▼ 当惑

珍しく僕以外の人間と組まされたスコッチがどこか上機嫌に戻って来た。組織に潜入を始めてからそんな素の様子を見せたことがなかったので、思い切って理由を尋ねてみると「面白い奴がいたんだ」と。
バーボンも組んで見ればわかるさ、と言われても。そう思っていたが、実際に会ってみると面白いというよりは変な奴だという印象だ。

「今回も宜しくな、キルシュ」
「‥‥スコッチ、さん」
「おっ。覚えてくれていたか。キルシュ、こっちはバーボン。“探り屋”って言えばわかるだろう?」
「さぐりや‥‥はい。えー‥‥、はい」
「(絶対わかってないだろ)紹介に預かりました、バーボンです」
「あとはこれから合流するライって奴もいるからな。そいつも俺と同じスナイパーだ」
「‥‥‥ライ、さん。了解です。えーと、バーボンさん、自分はキルシュです。本日は宜しくお願い致します」

真っ黒い瞳と髪。アジア圏の人間だろう。一見女性にもとれる、中性的で美しすぎる容姿。
キルシュというコードネームを与えられたこの男は接近戦、しかも刃物のみで闘う殺し専門の人物だった。恐らく背負っている竹刀袋の中に刀が入っていると思われる。
それから、およそ人間とは思えない身体能力の持ち主だという。どこまで誇張されているか怪しいところではあるが。

そして個人的に、この男は組織の人間とは思えないと、そう感じた。

「キルシュ、今回の目的ですが」
「スコッチさんと‥‥ライ‥?さんが万が一に備えて、バーボンさんと自分がターゲットに接触する、ですよね‥‥?」
「おいおい疑問形ばかりじゃないか」
「まあ、大体はあっていますよ。調べた所相手は大所帯でいらっしゃるようなので、こちらも人数を増やそうと思うのですが‥‥」
「大所帯?2対2で、じゃなかったのか?」
「あちら側が欲をかいたようでして」
「‥‥なるほどな。スナイパーはまあ良いとして、接触組は増やした方がいいか?キルシュはどう思う?」
「‥‥‥自分は、このままで、行きたいです」

動きにくくなると困るので、と付け足したキルシュ。まあ確かに、少人数の方が楽なとこは多いが‥‥。

「バーボンさんは自分が守りますから」

顔には出さなかったが、僕の気持ちは察したのだろう。黒い瞳がじっとこちらを見ている。
自分の身の安全など他人に任せずとも確保出来ると腹も立ったが、何より確信のないこの言葉が面白いと思った。

気に食わないが、合流したライも「このまま行こう」とさっさと配置に着いてしまったので、増援を呼ぶことなく取引現場へと向かうこととなったのだった。



×××



イヤホンからスコッチの「ぞろぞろといらっしゃった」、ライの「全員、随分物騒なモノを持っているようだ」という声がして、ああやはり掴んだ情報は間違っていなかったと口元を緩めた時、突然強い力で後ろに引かれた。何事かとその腕の主であるキルシュをみると、真っ黒なその瞳が何処か一点を睨みつけている。

3回の発砲音がして、先程まで立っていた位置に銃弾がめり込む。その内、1つの弾が跳ね返ってこちらに向かって飛んで来るのがスローモーションのように見えた。
キルシュに抑えられているせいで動くことができず、このままでは被弾すると思考が回ったその時、銀色に煌めく何かがもの凄い速さで動いた。
キィン!という音がして、煌めいたそれが刀で、飛んで来た弾が真っ二つになって地面に転がったのだと、一拍遅れて認識。
思わずぽかんと見遣る。

それからはあっという間の銃撃戦。

相手方は最初から取引などするつもりはなかったようだ。ジンめ、最初から分かっていて僕たちに振ったなと物陰に隠れて思わず舌打ち。
スコッチとライの狙撃で人数は減ったものの上手く射線から隠れている奴が多い。これは僕とキルシュだけで片付けるしかない。
未だに僕を腕の中に抱える彼に、キルシュ、と声を掛け視線を合わせる。行きますよと目で訴えると、キルシュも頷いたのでアイコンタクトがとれたと一安心。

と、思ったのに。

動かないで下さい、と言い残したキルシュが飛び出して行った。違う、僕が伝えたのはそういう事じゃない。
慌てて援護しようと銃を構えたが、僕は自分の見ているものが信じられなかった。

重力など関係ないというように飛び回るキルシュ。その跳躍やスピードは人間を凌駕している。
相手の懐まで一瞬で移動して刀で喉元を一刀両断。しまいには2本のナイフを投擲し空中でぶつけ合う事で、その進行方向を変えるという荒技まで。

断末魔をあげる間も無く倒れた彼らが、その鼓動を停止させていることは血の海を見れば明らかだった。

「‥‥キルシュ‥‥貴方、一体‥‥」

チン、と刀を仕舞ったキルシュがこちらを振り返る。あれだけ血液が舞っていた空間に居たにも関わらず、その美しい顔には一筋の朱が垂れているのみであった。グイ、と乱暴に擦られたそれが白い頬に薄く広がる。
彼に朱はよく似合う、と場違いな事を思った。

「自分、一応忍者なので」

その顔は至極真面目で。巫山戯ているんですか、なんて言えなかった。
怪我はないかと問うてきた彼に、呆気に取られながらもかろうじてお陰様で、と返す。

「な、面白いだろ?」イヤホンからスコッチの笑いを含んだ声が聞こえてきた。

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